ボルトの締付トルク・軸力の計算
ねじの呼びと強度区分から、狙う軸力と、そのために要る締付トルクを出します。締付トルクの大半はねじ面と座面の摩擦に消えるので、同じトルクでも摩擦係数(潤滑・表面処理)で軸力が大きく変わります。結果は前提つきの目安で、大事な締結は実物で確かめてください。
条件を入れる
トルクの使われ方(摩擦を分けた式の内訳)
ねじと強度の値
締付け係数 Q を見込んだ締付け
トルク法では、同じトルクでも摩擦のばらつきで軸力が最大 F〜最小 F/Q の幅に散ります。最大が F を超えないように、最大と最小の平均を狙うトルクで締める考え方です(ミスミの式・明治大の演習と同じ)。
メーカー・資料ごとの締付トルクの目安
同じサイズ・強度区分でも、資料ごとに前提(トルク係数 K・摩擦係数 μ・耐力の何 % まで締めるか)が違うので値がばらつきます。1つの値に決めず、前提を見て選んでください。
| 資料 | 締付トルク N·m | 軸力 kN | 前提 |
|---|
締付トルクはどこに使われるか
締付トルクのうち、ボルトを引き伸ばして軸力を生むのはごく一部です。残りは座面とねじ面の摩擦で熱に変わります。そのため、潤滑や表面処理で摩擦が少し変わるだけで、同じトルクでも軸力は大きく変わります。Unbrako の資料には、亜鉛めっき用のトルク係数で締めるべきところをカドミウムめっきのボルトに使うと、軸力がほぼ 2 倍になって破断しうる例があります。
ねじ部と座面の径
- ねじ面の摩擦は有効径 d2 の位置で働くとして計算します(d2 はねじのサイズページの値)。
- 座面の外径 Do は、六角ボルト・六角穴付きボルトの座面径 dw(最小)を使います。座金を入れるときは、座金の外径との小さいほうが接触の外径です。
- 座面の内径 Di はボルト穴径です。頭の下で座金が回らずボルトが座金の上で回る場合は、座金の内径 d1 を使います。
- 一部のサイズ(M14・M18・M22・M27 などの六角ボルトの dw、M1.6・M2.5・M27・M30 の JIS B 1001 のボルト穴径)は手元の資料に値が無いため、空欄になります。その場合は値を入れてください。
計算のしかた
軸力(耐力から) F = ν × σy × As
軸力(ねじりも含める) F = ν × σy × As ÷ √(1 + 3 × [2 × (P/π + μs × d2 × 1.155) ÷ dA]²) dA = √(4As/π)
簡易式 T = K × d × F
摩擦を分けた式 T = F/2 × (P/π + μs × d2 × sec30° + μw × Dw) sec30° ≒ 1.155
座面の等価直径 Dw = 2(Do³ − Di³) ÷ 3(Do² − Di²)
μ から求めた K K = (P/π + μs × d2 × 1.155 + μw × Dw) ÷ 2d
締付け係数 Q = Fmax ÷ Fmin 平均を狙うトルク T × (1 + 1/Q) ÷ 2
有効断面積 As = π/4 × (d − 0.938194P)²
- 摩擦を分けた式の 3 つの項は、順に「軸力を生む分(ピッチ)」「ねじ面の摩擦」「座面の摩擦」です(JIS B 1083 の考え方。精密工学会誌の解説・ハードロック工業の技術寄稿にある式)。VDI 2230 の形 MA = FM × (0.16P + 0.58 d2 μG + Dkm/2 × μK) も同じ式です。
- M16 強度区分 8.8・μ = 0.12 で、軸力 80.9 kN・Dw = (22.49 + 17.5)/2 として計算すると 205.2 N·m になり、Bossard・Würth の表の 206 N·m と 0.4 % 以内で合います(座面の径の選択を「平均」にすると同じ条件になります)。
- 「ねじりも含めた合成応力」の式は、締付け中にねじ部がねじられる分を見込んで、引張とねじりの合成応力(せん断ひずみエネルギー説)が耐力の ν % になる軸力です(精密工学会誌の解説の式)。摩擦が小さいほど大きな軸力まで締められます。VDI 2230 の表(Bossard・Würth、ν = 90 %)は係数の取り方が少し違うため、この式の値とは一致しません。
- d ≤ 16 mm の強度区分 8.8 のボルトを保証荷重を超えて締めると、ナットのねじ山がせん断で壊れる危険があります(NBK の注)。計算機は軸力が保証荷重・耐力荷重を超えると知らせます。
トルク係数 K の目安
トルク係数 K は摩擦係数そのものではなく、試験から決める係数です。表面処理と潤滑で 2 倍以上変わります。ミスミの表の組合せは「締め付ける部品の材質 − めねじの材質」で、S10C=未調質の軟鋼、SCM=調質鋼(35HRC)、FC=鋳鉄(FC200)、AL=アルミ、SUS=ステンレス(SUS304)です。
| 資料 | K | 条件 | 組合せ(ミスミ) |
|---|---|---|---|
| ミスミ[4] | 0.145 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | SCM−FC、FC−FC、SUS−FC |
| ミスミ[4] | 0.155 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | S10C−FC、SCM−S10C、SCM−SCM、FC−S10C、FC−SCM |
| ミスミ[4] | 0.165 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | SCM−SUS、FC−SUS、AL−FC、SUS−S10C、SUS−SCM、SUS−SUS |
| ミスミ[4] | 0.175 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | S10C−S10C、S10C−SCM、S10C−SUS、AL−S10C、AL−SCM |
| ミスミ[4] | 0.185 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | SCM−AL、FC−AL、AL−SUS |
| ミスミ[4] | 0.195 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | S10C−AL、SUS−AL |
| ミスミ[4] | 0.215 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・油潤滑 | AL−AL |
| ミスミ[4] | 0.25 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・無潤滑 | S10C−FC、SCM−FC、FC−FC |
| ミスミ[4] | 0.35 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・無潤滑 | S10C−SCM、SCM−SCM、FC−S10C、FC−SCM、AL−FC |
| ミスミ[4] | 0.45 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・無潤滑 | S10C−S10C、SCM−S10C、AL−S10C、AL−SCM |
| ミスミ[4] | 0.55 | 鋼ボルト 黒色酸化皮膜・無潤滑 | SCM−AL、FC−AL、AL−AL |
| Unbrako[7] | 0.2 | 受入れ状態の鋼ボルトを鋼の穴へ | — |
| Unbrako[7] | 0.15 | カドミウムめっきの鋼ボルト(潤滑剤のように働く) | — |
| Unbrako[7] | 0.28 | 亜鉛めっきの鋼ボルト | — |
| NBK[6] | 0.25 | 鋼・油潤滑 | — |
| NBK[6] | 0.4 | 鋼・無潤滑(めっき品等) | — |
| NBK[6] | 0.1 | ステンレス・表面処理あり | — |
| NBK[6] | 0.3 | ステンレス・表面処理なし | — |
| NBK[6] | 0.5 | ステンレス・クリーン洗浄品 | — |
| TONE[5] | 0.2 | 参考表の前提 | — |
| 明治大学(教材)[10] | 0.2 | 『慣例通り』の値として演習で使用 | — |
摩擦係数のクラス(VDI 2230)
Würth の技術資料による VDI 2230 の摩擦係数のクラスです。μ がはっきりしないときは、ボルトを締めすぎないよう「ありうる最小の摩擦係数」で計算します。ばらつきの小さい B クラスを狙うのがよいとされます。ステンレス(A2・A4)どうしは、乾いた状態で総合の μ が 0.23〜0.5、潤滑して 0.10〜0.20(Schäfer + Peters)で、焼付き(かじり)やすいので潤滑剤を使います。
| クラス | μG・μK の範囲 | 表面と潤滑の例 |
|---|---|---|
| A | 0.04 – 0.1 | 生地・黒染め・りん酸塩・亜鉛系めっき+固体潤滑剤(MoS2、グラファイト、PTFE 等)、ワックス |
| B | 0.08 – 0.16 | 生地・黒染め・りん酸塩・亜鉛系めっき・Al/Mg 合金+固体潤滑剤・ワックス・グリース・油・納入状態、溶融亜鉛めっき+MoS2 等、オーステナイト系+固体潤滑剤・ワックス・ペースト |
| C | 0.14 – 0.24 | オーステナイト系+ワックス・ペースト、生地・りん酸塩の納入状態(軽く油)、亜鉛系めっき・接着剤(潤滑なし) |
| D | 0.2 – 0.35 | オーステナイト系+油、亜鉛系めっき・溶融亜鉛めっき(潤滑なし) |
| E | 0.3 以上 | Zn/Fe・Zn/Ni めっき、オーステナイト系、Al・Mg 合金(潤滑なし) |
締付け係数 Q(αA)の目安
| 資料 | Q / αA | 締付け方法 | 表面・潤滑、ばらつき |
|---|---|---|---|
| ミスミ[4] | 1.25 | トルクレンチ | ボルト:マンガン燐酸塩、ナット:無処理または燐酸塩・油潤滑または MoS2 ペースト |
| ミスミ[4] | 1.4 | トルクレンチ・トルク制限付きレンチ | 無処理または燐酸塩・油潤滑または MoS2 ペースト |
| ミスミ[4] | 1.6 | インパクトレンチ | 無処理または燐酸塩・油潤滑または MoS2 ペースト |
| ミスミ[4] | 1.8 | トルクレンチ・トルク制限付きレンチ | 無処理または燐酸塩・無潤滑 |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.05 – 1.2 | 超音波による伸び制御締付け | ±2 – ±10% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.1 – 1.5 | 機械的な伸び測定 | ±5 – ±20% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.2 – 1.4 | 降伏点(トルク勾配)締付け・回転角締付け | ±9 – ±17% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.2 – 1.6 | 油圧テンショナ | ±9 – ±23% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.4 – 1.6 | トルク法(実物で伸び測定などにより目標トルクを実験的に決めた場合) | ±17 – ±23% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.6 – 2 | トルク法(摩擦係数を推定して目標トルクを決めた場合、摩擦係数クラス B) | ±23 – ±33% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 1.7 – 2.5 | 同上(摩擦係数クラス A) | ±26 – ±43% |
| Würth(VDI 2230)[2] | 2.5 – 4 | インパクト・インパルスレンチ | ±43 – ±60% |
Bossard は、一般的なトルクレンチで摩擦係数を推定して締める場合 αA = 1.6〜2.0 とし、例では M12 8.8・μ = 0.14 で最大軸力 41.9 kN、αA = 1.8 から最小軸力 23.3 kN を出しています。
強度区分の機械的性質
| 強度区分 | 引張強さ 最小 | 降伏点・0.2% 耐力 最小 | 耐力の呼び値 | 保証荷重応力 |
|---|---|---|---|---|
| 4.8 | 420 | 340 | 320 | 310 |
| 8.8 | 800 / 830 | 640 / 660 | 640 | 580 / 600 |
| 10.9 | 1040 | 940 | 900 | 830 |
| 12.9 | 1220 | 1100 | 1080 | 970 |
| A2-50 | 500 | 210 | — | — |
| A2-70 | 700 | 450 | — | — |
| A4-70 | 700 | 450 | — | — |
| A4-80 | 800 | 600 | — | — |
単位 N/mm²。「800 / 830」のように 2 つ並ぶ値は d ≤ 16 mm と d > 16 mm。強度区分の数字は、小数点の前 × 100 が呼びの引張強さ、小数点の後 × 10 が降伏比(%)です(10.9 → 1000 N/mm²、耐力はその 90 %)。A2(SUS304 系)と A4(SUS316 系)は強度区分が同じなら機械的性質も同じで、違うのは耐食性です。
関連するページ
出典
締付トルクの表は資料ごとの前提で作られた目安です。値は各資料のとおりに載せ、資料どうしで違うものは並べています。
- Bossard「Preload and tightening torques(Arrangement, design, assembly 01-2025, p.60-74)」
https://assets.eu.ctfassets.net/0vp0u5uh75zd/3S40LEUM235Qk3rJk2phR1/c715f9f45232756c12b59aa681c7fede/060_074_P… - Würth Industrie Service「DINO 技術資料 第6章 Dimensioning metric screw assemblies」
https://www.wuerth-industrie.com/web/media/en/pictures/wuerthindustrie/technikportal/dinokapitel/Kapitel_06_DI… - Schäfer + Peters「General Catalogue 2023(Technical Information for stainless steel fasteners, p.1248-1252)」
https://www.schaefer-peters.com/userdata/filegallery/original/3443e49a-3e2d-4b6f-8004-11659f6799e9.pdf - ミスミ(MISUMI)「ボルトの適正締付軸力/適正締付トルク(技術情報。表は極東製作所カタログからの抜粋・編集と明記)」
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td01/a0198.html - トネ(TONE)「締付けトルク値参考資料(概算)」
https://www.tonetool.co.jp/assets/pdf/support/links/torqwrench_figure.pdf - 鍋屋バイテック(NBK)「炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質(JIS B 1051:2000 より抜粋)・六角穴付きボルトの機械的性質と最大締め付けトルク」
https://www.nbk1560.com/images/ja-JP/product/technical_data/teiketubuhin_seishitsu_NBK/teiketubuhin_seishitsu_… - Unbrako「Unbrako US Product Guide(Socket Head Cap Screws・Dowel Pins・Technical Section)」
https://unbrako.com/images/downloads/Unbrako_US_Product_Guide.pdf - 精密工学会(小林光男・工学院大学)「「安全」を支える締結ねじの技術 ねじ締結体の基礎知識(精密工学会誌 Vol.81 No.7, 2015, p.619-)」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/81/7/81_619/_pdf - ハードロック工業(寄稿:晴山蒼一・東京都立大学)「技術寄稿 第7回「ねじ締結の原理と締結信頼性の向上」その②:トルク法におけるねじ締付け特性値の測定と分析」
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https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_design/md05/a0041.html - 三木プーリ「Standards: Hexagon head bolts(技術資料)」
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https://static.nbk1560.com/images/ja-JP/product/technical_data/hira_zagane_NBK/hira_zagane_NBK_1.pdf - 日本規格協会(JSA)「JIS B 1051:2014(ISO 898-1:2013)炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質 プレビュー(適用範囲のみ)」
https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_b_01051_000_000_2014_j_ed10_ch.pdf - 日本規格協会(JSA)「JIS B 1054-1:2013(ISO 3506-1:2009)耐食ステンレス鋼製締結用部品の機械的性質 プレビュー(適用範囲のみ)」
https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_b_01054_001_000_2013_j_ed10_ch.pdf - 日本規格協会(JSA)「JIS B 1083:2008 ねじの締付け通則 プレビュー(適用範囲のみ)」
https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_b_01083_000_000_2008_j_ed20_ch.pdf