表面処理編集:ケズリバ編集部

表面処理の寸法変化 早見表:めっき・アルマイト・窒化・PVD・溶射・電解研磨で直径はいくつ変わる?

「直径 2t、ねじは 4t、アルマイトは半分弱、窒化は測る」——これだけ覚えれば図面で困らない

マスコットのチップス
表面処理の寸法変化 早見表:めっき・アルマイト・窒化・PVD・溶射・電解研磨で直径はいくつ変わる?

図面に「硬質アルマイト」「窒化」「TiN コート」と一言書くだけで、部品の寸法は数 µm から数百 µm 変わります。しかも変わり方は処理によってまったく違い、めっきは外へ積み、アルマイトは半分しみ込み、窒化や浸炭は膜ではなく部品全体がふくらんだりひずんだりします。この記事では、現場でよく使う 27 の表面処理・熱処理について、膜厚(層の深さ)・外へ出る割合・直径の変化・処理温度とひずみ・規格を 1 枚の早見表にまとめ、処理前の寸法を出す計算機、ねじとはめあいの考え方、図面の書き方を付けました。めっきの見分け方と、めっき代の詳しい計算は「黒染め・めっきの見分け方と寸法変化」にあります。

先に結論:寸法の変わり方は 4 通り

  1. 外へ積む(めっき・PVD/DLC・溶射・塗装):軸の直径は +2t、穴は −2t、60°ねじの有効径は ±4t(t は片側の膜厚)[1][13]
  2. 半分しみ込む(アルマイト):外へ出るのは膜厚の 3〜5 割。硬質アルマイト 50 µm なら直径で約 50 µm 増える[1][3]
  3. 膜ではない(窒化・浸炭・高周波焼入れ):硬くなる層ができ、部品が少しふくらむ・ひずむ。量は鋼種と形で変わるので試作で測る[19][18]
  4. 表面を取る(電解研磨・化学研磨):軸は −2r、穴は +2r(r は片側の除去量)[9]

寸法が変わる 4 つのしくみ

① 外へ積むめっき・PVD・溶射・塗装直径 +2t② 半分しみ込むアルマイト直径 +2g(g=t の 3〜5 割)③ 膜ではない窒化・浸炭・焼入れ少しふくらむ・ひずむ④ 表面を取る電解研磨・化学研磨元の表面直径 −2rt外 g内硬化層r元の表面
断面の模式図(縮尺どおりではありません)。点線が処理前の表面。t は片側の膜厚、g は外へ出た分、r は片側の除去量。①は膜厚の分だけ外へ、②のアルマイトはアルミの表面を酸化アルミに変えていくので、膜の一部は元の表面より内側にできます。③は表面に「膜」は付かず、硬さが変わる層ができ、組織の変化や応力の抜けで全体が少しふくらんだり曲がったりします。

めっき・PVD のように表面に別の物質を積む処理は、膜厚の分だけそのまま外へ出ます。軸なら左右の両側に付くので、直径では膜厚の 2 倍です。アルマイトはアルミそのものを酸化アルミに変えていく処理なので、膜の一部は元の表面より内側にできます。窒化・浸炭・高周波焼入れは、窒素や炭素がしみ込んだり組織が変わったりして硬い層ができる処理で、表面に膜は付きません。代わりに、組織の変化による膨張や、加工で残っていた応力が熱で抜けることで、部品全体の寸法と形が少し変わります[20][26]。

膜厚・層の深さを並べてみる

同じ「表面処理」でも、DLC の 1 µm と高周波焼入れの 2 mm では 1,000 倍以上の差があります。下の図は横軸が対数目盛り(1 目盛りで 10 倍)です。

膜厚・層の深さ・除去量(µm、対数目盛り)0.11101001,000µm(1 mm = 1,000 µm)電気亜鉛めっき+三価クロメート無電解ニッケル硬質クロム電気ニッケル普通アルマイト(硫酸)硬質アルマイト黒染め(四三酸化鉄)りん酸亜鉛(パーカー)りん酸マンガンガス窒化イオン窒化(プラズマ窒化)軟窒化(タフトライドなど)浸炭焼入れ高周波焼入れPVD(TiN・TiAlN・CrN)DLCCVD(TiCN・Al2O3)溶射(WC-Co など)溶射(セラミックス)粉体塗装塗装(焼付・溶剤)電解研磨化学研磨酸洗いショットブラストショットピーニング寸法はほぼ変わらない不動態化(パッシベーション)寸法はほぼ変わらない膜・除去量(片側)硬化層の深さ(膜ではない)よく使う値
処理ごとの膜厚(めっき・アルマイト・コーティング・塗装)、硬化層の深さ(窒化・浸炭・高周波焼入れ)、片側の除去量(電解研磨など)の範囲。色は下の早見表の分類。窒化・浸炭・高周波焼入れの棒は「硬さが変わる深さ」で、寸法がその分ふくらむわけではありません(寸法の変わり方は本文)。値は下の早見表の出典による目安です。

早見表:27 の処理の膜厚と寸法変化

表の「外へ」は、膜厚のうち元の表面より外へ出る割合です(1=全部外へ)。「—」は膜でない処理です。値は出典に挙げた規格・公的機関・メーカーの資料による目安で、実際の膜厚は図面で指定し、処理業者と決めてください。*は一次資料が見つからなかった目安の値です。

めっき(外へ積む)

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
電気亜鉛めっき+三価クロメート
鉄鋼(ボルト・板金)
5 µm〜25 µm
よく使う 8 µm
1軸 +2t・穴 −2t、ねじ有効径 ±4t[11][13]常温付近の水溶液
熱ひずみなし。高強度鋼は水素ぜい化に注意
JIS H 8610・JIS B 1044(ISO 4042)
無電解ニッケル
鉄鋼・アルミ・銅合金
2.5 µm〜76 µm
よく使う 20 µm
1軸 +2t・穴 −2t。穴の奥・めねじにも同じ厚さで付く[6][7]加温した浴(硬化熱処理は 400℃前後)
めっきでは出ない。硬化熱処理で焼戻しの低い鋼は注意
JIS H 8645
硬質クロム
鉄鋼(油圧ロッド・ロール)
5 µm〜200 µm
よく使う 50 µm
1軸 +2t。厚付けして研削で仕上げるのが基本[8][28]水溶液(めっき後にベーキング)
熱ひずみなし。角が厚く、くぼみが薄い
JIS H 8615
電気ニッケル*
鉄鋼・銅合金
5 µm〜40 µm
よく使う 10 µm
1軸 +2t・穴 −2t。穴の奥は薄い加温した浴
熱ひずみなし
JIS H 8617

陽極酸化(半分しみ込み、半分ふくらむ)

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
普通アルマイト(硫酸)
アルミ合金
5 µm〜25 µm
よく使う 10 µm
0.3〜0.5軸 +2g・穴 −2g(g は膜厚の 3〜5 割)[1][3][2]常温付近の硫酸浴
熱ひずみなし
JIS H 8601(AA5〜AA25)
硬質アルマイト
アルミ合金
13 µm〜114 µm
よく使う 50 µm
0.4〜0.5軸 +約 t・穴 −約 t、ねじ有効径は約 2t[1][5]低温の硫酸浴(例 10℃)
熱ひずみなし。角に R が要る
JIS H 8603・MIL-A-8625 Type III

化成(表面が変わる(ほぼ変化なし))

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
黒染め(四三酸化鉄)
鉄鋼(治具・工具)
0.5 µm〜2.5 µm
よく使う 1 µm
—ほぼ変化なし[16]約 140℃のアルカリ浴
なし
MIL-DTL-13924
りん酸亜鉛(パーカー)*
鉄鋼(塗装・鍛造の下地)
1 µm〜20 µm
よく使う 5 µm
—条件しだいで数 µm 増える。はめあい面はマスキング[17]加温した浴
なし
MIL-DTL-16232 Type Z
りん酸マンガン*
鉄鋼(歯車・摺動部)
1 µm〜15 µm
よく使う 5 µm
—外への増分の数値は未確認加温した浴
なし
MIL-DTL-16232 Type M

拡散・熱処理(膜ではなく、ふくらみ・ひずみ)

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
ガス窒化
窒化鋼・合金鋼・工具鋼
200 µm〜1 mm
よく使う 500 µm
—全体が少しふくらむ(42CrMo4 の 90 mm で +0.036 mm)[19][20][21]約 480〜600℃
小さいが、残留応力が抜けてそることがある
JIS G 0562
イオン窒化(プラズマ窒化)
工具鋼・合金鋼・ステンレス
50 µm〜250 µm
よく使う 150 µm
—SCM440 で +0.06%、SKD11・ステンレスで +0.12〜0.2%[18][19]約 400〜550℃
工具鋼・ステンレスはふくらみが大きい
JIS G 0562
軟窒化(タフトライドなど)
炭素鋼・合金鋼・鋳鉄
100 µm〜500 µm
よく使う 200 µm
—少しふくらむ(実測の数値は未確認)[22][21]約 540〜590℃
浸炭より小さい。素材は高めの温度で焼戻しておく
AMS 2759/13
浸炭焼入れ
肌焼鋼(SCM415・SCr420)
500 µm〜1.5 mm
よく使う 1 mm
—変態のふくらみとひずみ(φ80 リングで真円度 21〜64 µm 悪化の例)[23][24][25]約 900〜980℃→焼入れ
大きい。精度の要る面は後で研削
JIS G 0557
高周波焼入れ
S45C・SCM440・SUJ2
1 mm〜3 mm
よく使う 1.5 mm
—向きと量は形と加熱範囲しだい[26][27]表層だけ急速に加熱して急冷
熱応力のひずみが大きい。位置の効く加工は後で
JIS G 0559

薄膜(外へ薄く積む)

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
PVD(TiN・TiAlN・CrN)
工具鋼・超硬・焼入れ鋼
1 µm〜5 µm
よく使う 3 µm
1軸 +2t・穴 −2t(直径で 2〜10 µm)[28][29]約 200〜500℃
小さい。焼戻しの低い鋼は低温タイプ
各社の膜種名で指定
DLC
焼入れ鋼・超硬・アルミ
0.5 µm〜3 µm
よく使う 1.5 µm
1軸 +2t・穴 −2t(直径で 1〜6 µm)[28][30]250℃未満が多い
ほぼなし
ISO 20523(分類)
CVD(TiCN・Al2O3)
超硬工具・金型
5 µm〜20 µm
よく使う 10 µm
1軸 +2t。鋼では熱ひずみのほうが大きい[29]約 700〜1000℃
鋼部品は大きい(再焼入れになる)
各社の膜種名で指定

厚膜(外へ厚く積み、削って仕上げる)

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
溶射(WC-Co など)
鉄鋼・ステンレス(軸・ロール)
100 µm〜300 µm
よく使う 200 µm
1下地を溶射代ぶん削り、溶射後に研削で寸法を出す[31][32]基材は低く保つ
小〜中。薄物・長物はそることがある
JIS H 8306
溶射(セラミックス)*
鉄鋼・アルミ(ロール・絶縁)
100 µm〜500 µm
よく使う 200 µm
1軸 +2t。はめあい面は研削・ラップで仕上げ[33]基材は低く保つ
小〜中
JIS H 8304
粉体塗装
鋼板・アルミ押出材
60 µm〜120 µm
よく使う 75 µm
1軸 +2t・穴 −2t(75 µm で直径 150 µm)[34]焼付け
薄板が少しそる程度
塗料の仕様書
塗装(焼付・溶剤)*
鋼板・鋳物
15 µm〜40 µm
よく使う 25 µm
1軸 +2t・穴 −2t(下塗り+上塗り)常温〜焼付け
ほぼなし
塗料の仕様書

除去(表面を取る(小さくなる))

処理膜厚・深さ外へ寸法の変わり方温度・ひずみ規格
電解研磨
ステンレス
5 µm〜13 µm
よく使う 8 µm
—軸 −2r・穴 +2r(r は片側の除去量)[9]酸の浴で通電
なし。角・ねじ山の頂が丸くなる
ASTM B912
化学研磨*
銅合金・アルミ・ステンレス
1 µm〜20 µm
よく使う 5 µm
—軸 −2r・穴 +2r。除去量は時間にほぼ比例液と材料による
なし。バリ・角が先に溶ける
—
酸洗い*
鉄鋼・ステンレス
0 µm〜10 µm
よく使う 2 µm
—スケールが取れるぶん小さくなる[10]液による
なし。高強度鋼は水素ぜい化に注意
—
ショットブラスト*
鉄鋼・鋳物
0 µm〜20 µm
よく使う 5 µm
—わずかに小さく、表面は粗くなる常温
薄板の片面だけだとそる
—
ショットピーニング
ばね・歯車・軸
——直径はほぼ変わらない。薄物はそる[35]常温
そりは板厚の 2 乗に反比例
AMS 2430
不動態化(パッシベーション)
ステンレス
——変化なし[10]硝酸・クエン酸の浴
なし
ASTM A967

計算機:処理前の寸法はいくつにする?

処理後に狙う寸法から、処理前に削っておく寸法を出します。膜厚と外へ出る割合は、早見表の「よく使う値」が入ります。処理業者と決めた値に書き換えてください。

  • 直径は 2 × 外へ出た量、60°ねじの有効径は 4 × 外へ出た量変わります(山の斜面に直角に付いた膜は、半径方向には 2 倍ずれるため)[1][13][14]
  • 窒化・浸炭・焼入れは「膜」ではないので計算しません。下の実測例のように、試作で測って処理前の寸法を補正します
  • 電気めっきは角が厚く、穴の奥・めねじの谷は薄くなります。無電解ニッケルは穴の奥まで同じ厚さで付くので、計算どおりに効きます[7][8]

アルマイトは「半分」か「3 割」か

アルマイトの寸法の増え方は、資料で書き方が分かれます。米軍規格 MIL-A-8625F は普通・硬質を区別せず「片面あたり膜厚の約 1/2 が寸法増」としています[1]。一方、処理業者の解説には、普通アルマイト(Type II)を「3 割が外・7 割が内」、硬質アルマイト(Type III)を「半分ずつ」とするものがあり[3]、国内の処理業者も寸法の増える割合を膜厚の 40〜50% と説明しています[4]。

  • 普通アルマイト(5〜25 µm)は、もともと膜が薄いので寸法の問題は小さいことが多い。はめあい面で効く場合は、膜厚の 3〜5 割で幅を見ておきます
  • 硬質アルマイトは指定がなければ約 50 µm で、膜厚の公差は ±20%(2 mil 以下)です[1]。外へ出る量は 25 ± 5 µm、直径では ±10 µm のばらつきが加わります
  • 銅やけい素の多いアルミ合金(ダイカスト用など)は膜が育ちにくく、同じ条件でも薄くなります[5]
  • MIL-A-8625F は、処理前の加工寸法と処理後の寸法の両方を図面に書くよう勧めています[1]。小径の穴やめねじの中は、膜が付かないところから通常の膜までばらつきます

窒化・浸炭・焼入れ:膜ではなく「ふくらみ」と「ひずみ」

窒化の「化合物層 10 µm」と聞くと、直径が 20 µm 増えると考えがちですが、実際の寸法変化は化合物層の厚さだけでは決まりません。しみ込んだ層の膨張と、前加工で残った応力が熱で抜ける分が重なるからです[19][20]。

実測の例条件寸法の変化
42CrMo4(SCM440 相当)、長さ 90 mmガス窒化 530℃×7 h、化合物層 18.4 µm+0.036 mm(約 0.04%)[19]
同上プラズマ窒化 520℃×14 h、化合物層 6.4 µm+0.032 mm[19]
研削仕上げの面(同上)窒化後寸法の公差等級が IT8 → IT9 に 1 段落ちた[19]
□10 mm の角棒(SCM440)イオン窒化 550℃×5 h対辺で +0.06%(約 6 µm)[18]
□10 mm の角棒(SKD11・SKD61・ステンレス)同上+0.12〜0.2%(12〜20 µm)。S45C はほぼ変化なし[18]
外径 80・内径 70 のリング(肌焼鋼)浸炭条件の焼入れ真円度が 21〜64 µm 悪化(鋼種・結晶粒で違う)[23]
  • 合金元素(Mn・Cr・Mo・V)が多い鋼ほど、窒化でふくらみやすい傾向があります[20]。工具鋼・ステンレスが大きく、炭素鋼は小さい(上の表)
  • 窒化は変態点より低い温度(約 480〜600℃)なので、浸炭・高周波焼入れよりひずみは小さめです[21][19]。素材は窒化温度より高い温度で焼戻したものを使います
  • 浸炭焼入れ・高周波焼入れは焼入れの変態膨張と熱応力が重なり、精度の要る面は焼入れ後に研削で仕上げる前提で取り代を残します[24][26]。高周波焼入れは部分的に加熱するので、熱応力によるひずみが変態の膨張の 3 倍以上になるという解説もあります[26]
  • 硬化層の深さは JIS G 0557(浸炭)・JIS G 0559(高周波)・JIS G 0562(窒化)の測り方で指定します[25]。S45C φ40 の高周波焼入れで有効硬化層 1.8〜1.9 mm の例があります[27]

PVD・DLC・CVD・溶射・塗装

  • PVD(TiN・TiAlN・CrN)は 1〜4 µm ほどで、形をなぞって付くので仕上げた寸法・はめあいをほぼ保てます。処理温度は 200〜500℃で、浸炭品など焼戻し温度の低い鋼には 250℃未満の低温タイプを選びます。穴の中は付きにくく、穴の直径>深さが目安です[28]
  • DLCは 0.5〜3 µm、250℃未満が多く、ひずみはほぼありません[28]。ISO 20523 で構造・水素量・添加元素により 7 種に分類されます[30]
  • CVDは 5〜20 µm と厚く、処理温度が 700〜1000℃と高いので、鋼部品では膜厚より熱によるひずみのほうが問題になります。超硬工具向けの処理と考えるのが無難です[29]
  • 溶射(WC-Co など)は 200〜300 µm を狙うのが一般的で[31]、下地を溶射代ぶん小さく削っておき、溶射後にダイヤモンド砥石で研削して寸法を出します。図面には「溶射厚」と「研削後の膜厚」を分けて書きます[32]
  • 粉体塗装は 70〜80 µm が一般的な推奨膜厚で[34]、直径では 150 µm 前後変わります。ねじ穴・はめあい面・アース面はマスキングが前提です

寸法が減る処理と、変わらない処理

  • 電解研磨:NASA の仕様では除去量は片面 0.0002〜0.0005 in(約 5〜13 µm)で、別の量が要るときは図面に「片面あたり ○〜○ を除去」と書き、寸法かゲージで確かめるとしています[9]。角やねじ山の頂は丸くなります
  • 不動態化(パッシベーション)はステンレスの表面の遊離鉄を取って酸化膜を整えるだけで、素地を削る処理ではありません。判定は「エッチング・ピット・曇りがないこと」です[10]
  • ショットピーニングは削らないので直径はほぼ変わりませんが、薄物を片面だけ打つとそります。そりの曲率は板厚の 2 乗に反比例し、同じ条件なら 10 mm の板のそりは 1 mm の板の約 1/100 です[35]

ねじ:めっき前はひとまわり小さく作る

60°のねじに膜厚 t のめっきを付けると、有効径は 4t 変わります。10 µm のめっきなら 40 µm で、これはふつうのねじの公差の幅に近い量です[13][14]。

  • 締結用のねじは JIS B 1044(ISO 4042 の翻訳)に従い、めっき前のおねじを g・f・e(めねじは G)の公差位置で作り、めっき後に h(めねじは H)の通りゲージが通ることで合否を決めます[11][12]
  • 膜厚の上限は、有効径が 4t 増えても h の線を越えないよう基礎となる寸法許容差の 1/4 が目安です。M10(ピッチ 1.5)なら g で約 8 µm、f で約 11 µm、e で約 16 µm(計算値)[12]
  • めねじは、めっき厚の約 4 倍大きいオーバサイズタップで立てます。めっき 5 µm なら 20 µm、10 µm なら 40 µm が目安です[15][13]
  • 電気めっきは止まり穴のめねじの奥まで十分に付かないことが多い一方、無電解ニッケルは奥まで 4t がそのまま効くので、オーバサイズタップを必ず検討します[7]

めっき代とゲージの選び方の詳しい話は めっきの見分け方と寸法変化、ねじの寸法そのものは ねじの寸法表にあります。

はめあい:膜厚のばらつきが公差を食う

処理後の直径のばらつきは、加工のばらつき+2 ×(外へ出る量のばらつき)です。硬質アルマイト 50 µm ± 20% なら、それだけで直径に ±10 µm が加わり、φ20 の IT7(公差の幅 21 µm)をほぼ使い切ります[1]。硬質クロムを研削で仕上げた場合の膜厚公差の例は 0.0005 in(約 13 µm)です[8]。公差の厳しいはめあい面は、次のどれかを図面で決めておきます(はめあい公差の計算)。

  1. 処理後に仕上げる:研削・ホーニング・ラップで寸法を出す(硬質クロム・溶射・浸炭焼入れの定番)
  2. 処理しない:マスキングして、はめあい面とねじには膜を付けない
  3. 試作で測って補正する:同じ材料・同じ処理業者で処理前後を測り、処理前の寸法を決める(窒化・アルマイト)

図面の書き方

  • 寸法が処理前か処理後かを必ず書く。アルマイトは両方を書くのが MIL の推奨です[1]
  • 膜厚・除去量は範囲で書く(例:研削後の膜厚 0.0020〜0.0050 in、片面あたり 0.0002〜0.0004 in を除去)[8][9]
  • ねじは「めっき後 6h(6H)」のように、検査に使うゲージの公差域で書く[11]
  • 窒化・浸炭・高周波焼入れは、硬さと有効硬化層の深さ、仕上げ研削の有無を書く[25]

よくある失敗

  1. めっき後に h のゲージが入らない:めっき前を h(6h)のまま作った。めっき前は g・f・e で作る
  2. 硬質アルマイトのはめあいがきつい:膜厚 50 µm の半分 × 2 = 直径 50 µm を見込んでいなかった
  3. 窒化した研削面が公差から外れる:化合物層だけで計算した。前加工の応力の抜けとふくらみは試作で測る
  4. 浸炭焼入れの後に穴位置がずれる:位置の効く穴を焼入れ前に仕上げた。焼入れ後に加工するか取り代を残す
  5. CVD で金型が変形:処理温度が焼入れ温度を超えていた。精密な鋼部品は低温の PVD を選ぶ
  6. 粉体塗装でボルトが入らない:ねじ穴をマスキングしなかった(直径で 150 µm 前後細る)
  7. 電解研磨でねじ山がやせる:除去量を図面に書かなかった。片面の除去量を範囲で指定する

よくある質問

めっきをすると直径はいくつ増えますか?
めっきは膜厚の分だけ外へ積むので、軸の直径は膜厚の 2 倍増え、穴は 2 倍小さくなります。8 µm の亜鉛めっきなら直径で 16 µm です。60°のねじの有効径は膜厚の 4 倍(8 µm なら約 32 µm)変わります。
アルマイトの寸法の増え方は膜厚の何割ですか?
米軍規格 MIL-A-8625F は「片面あたり膜厚の約 1/2」としていますが、処理業者には普通アルマイトを 3 割、硬質アルマイトを 4〜5 割とする資料もあります。はめあいが効く部品は 3〜5 割の幅で見込み、試作で測って決めてください。
窒化すると寸法は変わりますか?
変わります。表面に膜が付くのではなく、窒素がしみ込んだ層の膨張と、前加工の応力の抜けで全体が少しふくらみます。42CrMo4 の 90 mm の長さで +0.036 mm、工具鋼やステンレスの角棒で +0.12〜0.2% の実測例があります。量は鋼種と形で変わるので、寸法の厳しい部品は試作で測ってください。
黒染めやパッシベーションで寸法は変わりますか?
黒染め(四三酸化鉄皮膜)は 1 µm 前後で素地側にできるため、寸法はほとんど変わりません。ステンレスのパッシベーションは素地を削る処理ではないので、寸法は変わりません。

関連:黒染め・めっきの見分け方と寸法変化(めっき代の計算機)・はめあい公差・ねじの寸法・被削材データベース・作図(図面の書き方)

出典・参考資料

  1. 米国防総省「MIL-A-8625F Anodic Coatings for Aluminum and Aluminum Alloys」(1993、PDF)
  2. 日本規格協会「JIS H 8601:2025 アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜」(プレビュー)
  3. Micron Coatings Group「Type II vs Type III anodizing: clear and hard anodizing」(処理業者の解説)
  4. アルバックテクノ「アルマイト処理」(処理業者の解説)
  5. 三重県工業研究所・樋尾勝也ほか「ダイカストに用いられるアルミニウム合金の陽極酸化特性」研究報告 No.39(2015、PDF)
  6. NASA Johnson Space Center「PRC-5007 Process Specification for Electroless Nickel Plating」(PDF)
  7. 技術資料「The Engineering Properties of Electroless Nickel Coatings」(1983、PDF)
  8. NASA Johnson Space Center「PRC-5003 Process Specification for Chromium Plating」Rev. D(2020、PDF)
  9. NASA Johnson Space Center「PRC-5009 Process Specification for Electropolishing of Corrosion Resistant Steel」Rev. B(2019、PDF)
  10. NASA Johnson Space Center「PRC-5002 Process Specification for Passivation and Pickling of Metallic Materials」Rev. G(2021、PDF)
  11. 日本規格協会「JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム」(ISO 4042:2022 の翻訳、プレビュー)
  12. Torqbolt「ISO 4042 Zinc, Zinc Nickel, Cadmium Plated Fasteners」(ISO 4042 の解説)
  13. 彌満和製作所「めっき厚とオーバサイズ量」技術資料
  14. 彌満和製作所「おねじのめっき厚とダイスのアンダサイズ量」技術資料
  15. オーエスジー FAQ「めねじにめっきを施す場合、タップはどの程度のオーバサイズを使用すればよいか?」
  16. パーカープロセッシング「パプロブラック(厚膜型四三酸化鉄皮膜処理)」
  17. パーカープロセッシング「パプロボンド(りん酸亜鉛皮膜処理)」
  18. 大分県工業試験場・鶴岡一康「鋼のイオン窒化処理」研究報告(1990、PDF)
  19. D. Dobrocký ほか「Change in Dimensions and Surface Roughness of 42CrMo4 Steel after Nitridation in Plasma and Gas」Coatings 12(10), 1481(2022)
  20. 今高秀樹ほか「高強度窒化ギヤ用鋼の開発」新日鉄住金技報 第406号(2016、PDF)
  21. 平岡・石田・梅澤「ガス窒化処理した SCM435 鋼の回転曲げ疲労強度に及ぼす表面化合物相の影響」熱処理 57(2)(2017、横浜国立大学リポジトリ)
  22. Super Systems Inc.「Exploring Ferritic Nitrocarburizing and Different Post-Oxidation Treatments」Industrial Heating(2018、PDF)
  23. 田中優樹ほか「浸炭材の熱処理ひずみにおよぼす旧オーステナイト粒径の影響」電気製鋼 90(1)(2019、PDF)
  24. JTEKT「軸受軌道輪の普通焼入れと浸炭焼入れの変形メカニズムの解析」JTEKT ENGINEERING JOURNAL No.1009(2011、PDF)
  25. 日本規格協会「JIS G 0557:2025 鋼の浸炭硬化層深さ測定方法」(プレビュー)
  26. 富士電子工業「変態膨張歪と熱応力歪 マルテンサイト」(高周波焼入れメーカーの技術解説)
  27. 新潟県工業技術総合研究所「高周波焼入れした炭素鋼 S45C の金属組織と硬さ」技術トピックス(2020、PDF)
  28. Oerlikon Balzers「Coated components – Greater performance and reliability」技術資料(PDF)
  29. Cutting Tool Engineering「Get chemical with CVD-coated inserts」
  30. 岐阜県産業技術総合センター・小川大介、田中等幸「炭素系硬質膜の密着性改善に関する研究(第1報)」研究報告 第7号(2025、PDF)
  31. K. Torkashvand ほか「Tribological Performance of Thin HVAF-Sprayed WC-CoCr Coatings Fabricated Employing Fine Powder Feedstock」Journal of Thermal Spray Technology(2023)
  32. 日本規格協会「JIS H 8306:2009 サーメット溶射」(プレビュー)
  33. 日本規格協会「JIS H 8304:2024 セラミック溶射」(プレビュー)
  34. TIGER Coatings「TIGER Drylac 施工指示書」data sheet 1213(日本語、2022 年版、PDF)
  35. D. Kirk「Component Shape Changes Caused by Shot Peening」The Shot Peener(2012、PDF)

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