放電加工機の不調の早見表

症状から、考えられる原因・点検する所・処置を引く。周期・設定値・油種は機械メーカーの取扱説明書が最優先。ここにある値は公開資料に載っていた例。危険物を加工液に使う放電加工機は市町村の火災予防条例の対象で、設置の届出や貯蔵量の扱いは管轄の消防署の指導に従うこと

ワイヤがよく断線するワイヤ

考えられる原因点検する所処置
放電エネルギーが大きすぎる、または液処理(噴流)が足りない加工条件、噴流の圧力と流量放電の休止時間を延ばすなどして投入エネルギーを下げる。加工液の量・圧力を上げる(薄い加工物は水圧で動かないよう注意)[1][2][3]
上ノズルが加工物から離れている(段差や凹凸のある加工物)上ノズルと加工物のすきま(密着加工ではおよそ 0.05〜0.10 mm が勧められている)ノズルをできるだけ加工物に近づける。段差がある加工物では、機械の薄板・段差向けの加工モードを使うか、すきまを小さく保つ加工方法を考える京都府の試験では、上ノズルが高く、流量が少なく、加工物の下に段差があると断線しやすかった。段差部の断線は条件過大による集中放電などによる[4][3][2]
板厚が厚く、ギャップに加工液が届きにくい板厚と加工条件、ワイヤ径液処理を強め、投入エネルギーを抑える。太いワイヤは断線しにくい(ただし最小コーナ R が大きくなる)[1](資料1件・参考)
ギャップに気泡がたまり、ワイヤが局所的に冷えなくなる短絡が増えていないかサーボ基準電圧を上げてワイヤと加工物の間隔を広げ、テーブル送りも同時に遅くする[2](資料1件・参考)

自動結線が失敗する・機械がたびたび止まるワイヤ

考えられる原因点検する所処置
加工槽やノズル穴にスラッジがたまっている加工槽の底・上下ノズルの穴スラッジを定期的に掃除する(三菱電機の取扱説明書は週 1 回を推奨)[5][6](資料1件・参考)
ボビンの中心近くでワイヤのくせ(カール)が強いワイヤの残量残りが少なくなったボビンは早めに替える[1](資料1件・参考)
自動結線装置の汚れ・調整のずれ自動結線装置、ブレーキローラ、張力自動結線装置を清掃・調整し、張力を測って合わせる[7](資料1件・参考)

加工面にうねり・すじが出るワイヤ

考えられる原因点検する所処置
上ノズル(上ガイド)と加工物のすきまが大きく、気泡でワイヤが振動しているノズルと加工物のすきますきまを小さくする(密着加工)[4](資料1件・参考)
ワイヤの真円度が悪いワイヤの銘柄・ロット真円度を管理した高面精度のワイヤを使う(OKI 電線の例では、うねりが約 30% よくなった)[8](資料1件・参考)

板厚の中央が膨らむ・へこむ(タイコ形状)ワイヤ

考えられる原因点検する所処置
板厚の中央に加工液が届かず、加工くずの濃度が上がって二次放電が起きる板厚、ノズルの密着、噴流圧、張力ワイヤの張力を調整する、加工エネルギーを抑える、ノズルを密着させて噴流圧を調整する[1][4]

寸法や形がずれるワイヤ

考えられる原因点検する所処置
上下アームなどの熱変位室温の変化、加工時刻による寸法の変化温度環境を安定させる(高精度加工では 20±1℃ が推奨されている例がある)[1][9]
1st カットで材料内部の応力が解放され、加工物がひずむ1st カット後の寸法1st カット後にひずみ取りをしてから仕上げる。加工開始穴は加工中にひずみが出ないように設ける[1][10]
ワイヤの垂直が出ていない垂直出し治具でワイヤの垂直垂直出しをやり直す[10][11]
ワイヤガイドの径が合っていない・汚れているガイドの径と汚れ指定径のガイドを使い、清掃する[12](資料1件・参考)
切り残し部の仕上げで、切り離す部分が動く切り残し部の固定固定治具・ワイヤ・銅板などで固定してから仕上げる[1](資料1件・参考)

比抵抗が上がらない(導電率が下がらない)・樹脂の交換が早いワイヤ

考えられる原因点検する所処置
イオン交換樹脂の交換能力が落ちている比抵抗計の値(ソディックは 50,000 Ω を下回ったら交換を推奨)イオン交換樹脂を替える[12][13]
比抵抗の設定を高く(導電率を低く)している設定値加工に要る値に合わせる。導電率を下げるほど樹脂は早く減る三菱電機は、導電率を下げると樹脂の寿命は延びるが面粗さが悪くなる関係があったとしている(樹脂の寿命と面粗さの釣り合い)[13](資料1件・参考)

加工物や治具がさびる・変色するワイヤ

考えられる原因点検する所処置
水の中での電解腐食導電率、電源の方式、加工後の放置時間導電率を必要以上に上げない。両極性の回路、犠牲電極、添加剤、加工くずの除去などで抑える。防食性のイオン交換樹脂を使う方法もある[1][14]
違う金属どうしの接触(異種金属接触腐食)加工物と治具の材質電位の違う金属を水の中で接触させたままにしない[1](資料1件・参考)
超硬合金のコバルトが水の中で電解溶出する加工物の材質(超硬合金)油の加工液でのワイヤ放電加工は、コバルトの電解溶出を防げるとされている[15](資料1件・参考)
長く止めている間に水が残っている停止期間長く止めるときは水を抜いてタンクを掃除し、むき出しの金属面にさび止めをかける[16](資料1件・参考)

加工が不安定になる・速度や面質が落ちる共通

考えられる原因点検する所処置
加工くず(加工チップ)が極間にたまる液処理(噴流・吸引・ジャンプ)の状態液処理を見直す[1](資料1件・参考)
フィルタの目詰まりで液質が悪いフィルタの圧力計規定圧力を超えたらフィルタを替える[1][12][6]
比抵抗が設定値から外れている比抵抗計樹脂を替えるなどして設定値に戻す[1](資料1件・参考)
給電子の当たり面が劣化している給電子の位置替えの記録給電子の位置を替える(インデックス)[17](資料1件・参考)

異常アーク・異常放電が起きる形彫り

考えられる原因点検する所処置
加工くずが局所的にたまる・フラッシングが足りない噴流の向きと量、電極ジャンプの設定加工液のフラッシングを十分にする。電極ジャンプのストロークを長く、速度を高くする[18][1]
荒加工の放電休止時間が短い・平均加工電流が高すぎる加工条件休止時間を長くし、平均加工電流を下げる[18](資料1件・参考)
炭化生成物が電極と加工物の間で成長している異常加工検出装置の働き、電極と加工物の状態異常を検出したら自動で加工が止まるようにしておく。放置すると炭化物が液面まで育ち、液面で放電して引火する[19][20][21]

加工油に火が付いた(火災・ぼや)形彫り

考えられる原因点検する所処置
液面が低すぎるまま加工した(液面設定の誤りを含む)液面の設定と液面検出装置加工物の上面から 50 mm 以上の液面を保つ設定にし、液面が下がったら自動で止まることを確かめる[20][21][22]
加工液を吹きかけながら加工した・液面検出装置を働かないようにした加工方法、安全装置の状態吹きかけ加工、タンクが空のままの空放電、安全装置を外した加工はしない(条例で禁止)液面検出装置にプライヤーを差し込んで固定し、加工液のない状態で加工して引火した事例がある[20][22][23]
異常放電で炭化物が成長し、液面で放電した異常加工検出装置異常加工検出装置の働きを定期的に確かめる。電極の噴流穴の取付部から液が漏れて噴流圧が下がり、炭化物がたまった事例もある[20][21]
フィルタの目詰まりで循環が悪く、加工液が冷えなかったフィルタの圧力、加工液の循環フィルタを替え、循環と液温を確かめる[20](資料1件・参考)
温度センサが汚れて働かなかった液温検出装置の清掃と作動定期的に点検・清掃する[21](資料1件・参考)
引火点の低い油(灯油など)を使った使っている加工液の引火点引火点 70℃以上の放電加工油を使う(条例で 70℃未満は禁止)危険物保安技術協会が集めた事例のうち 2 件は灯油(第2石油類)を使っていた[20][21][24]
自動消火装置の薬剤が、前の作動のあと再充填されていなかった薬剤の量作動したら必ず再充填し、機能を定期点検する[20](資料1件・参考)

電極の消耗が大きい形彫り

考えられる原因点検する所処置
加工条件が消耗の多い条件になっているパルス幅・極性・エネルギー無消耗に近い条件(油の加工液で、一定以上の放電エネルギー)を使う。ごく低エネルギーの仕上げでは消耗が増えやすい[1](資料1件・参考)
電極材が加工に合っていない電極材と加工物の組合せ、角(コーナ)の消耗強度と耐熱性の高い電極材を選ぶ(角の消耗を抑えるのが要点)[25][1]
角に消耗が集中しているコーナ部の形揺動加工を使うとコーナの消耗を減らせる[1](資料1件・参考)

加工面に割れ(マイクロクラック)が出る・金型が割れる形彫り

考えられる原因点検する所処置
放電加工面のマイクロクラックと、仕上げ研磨の不足加工面の観察電極ジャンプや揺動を使う。低電流パルスの正極性で仕上げる。ラッピングやブラストで加工変質層を取る[18][1]
荒加工の放電エネルギーが高い・材料に残留応力がある荒加工の条件、熱処理(焼戻し温度)荒加工のエネルギーを下げ、休止時間を長くする。荒加工用電極のエッジ・コーナに丸みをつける。高温焼戻し材を使う[18](資料1件・参考)

加工面にピンホールや縞模様が出る形彫り

考えられる原因点検する所処置
加工物の異常組織や非金属介在物加工前に素材をラッピングして組織を見る材料を見直す[18](資料1件・参考)

電極がガイドに詰まる・穴が曲がる細穴

考えられる原因点検する所処置
電極の先に炭素が付いて太り、短くなった先端がガイドの中まで引き上がった電極の先端、ガイドの位置電極の引き上げに合わせてガイドも引き上げる動作順にする。加工の始めは弱い条件にする[26](資料1件・参考)
長い電極が振れる・曲がる電極の突出し長さ、中間ガイドの有無中間ガイドで電極を支える[11][27]

加工条件・工具の側の原因は 加工トラブル事典 にまとめています。

📚出典

印のない項目は、別々の発行元の資料 2 つ以上で一致したものです。数値・周期は機種ごとの指定が優先します。文はケズリバの言葉でまとめています。

  1. ソディック「よくあるご質問(ワイヤ放電加工・形彫り放電加工)」
  2. 大阪大学「接合科学研究所 技術報告「技術調査(ワイヤ放電加工)―なぜ断線するか―」(2022)」
  3. 京都府中小企業技術センター「研究報告(平成26年度)ワイヤ放電加工の断線防止対策について~断面が凹形状の薄板のワイヤ放電について~」
  4. 名古屋大学「技術報告「Z軸送り制御による走査線ワイヤ放電加工法の開発」(全学技術センター)」
  5. 三菱電機「The Art of Manufacturing【ワイヤ放電加工機MGシリーズ篇】第3回 重要なのはメンテナンスの「回数」だった」
  6. 三菱電機「三菱電機技報 Vol.100 No.4(2026)新型ワイヤ放電加工機“MGシリーズ”」
  7. FANUC Europe(ファナックの欧州法人)「ROBOCUT Preventive Maintenance(予防保全の内容と周期)」
  8. 沖電気工業(OKI テクニカルレビュー。執筆はグループ会社の OKI 電線)「OKI テクニカルレビュー 第237号(2021)金属面の高精度加工を実現する放電加工機用電極線」
  9. ファナック「ワイヤカット放電加工機 ロボカット α-CiC シリーズ カタログ(RCUT-CiC(J)-07)」
  10. 新潟大学「工学部 機械実習テキスト 第5章 放電加工(ワイヤ放電加工の注意事項・感電)」
  11. ソディック「サプライ品 周辺機器(垂直出し治具・ワイヤテンションメーター・超音波洗浄器・中間ガイドなど)」
  12. ソディック「よくあるご質問(サプライ品):ワイヤガイド・フィルタ・イオン交換樹脂・パイプ電極・加工液」
  13. 三菱電機「The Art of Manufacturing 特集論文「世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”」第3回(ランニングコスト:フィルタ・イオン交換樹脂)」
  14. 岩手大学「研究シーズ 機-12「水中での鉄系金属の防食方法」(ワイヤ放電加工の加工水の防食)」
  15. 岡山大学「学位論文の要旨「高性能ワイヤ放電加工のための油加工液特性の最適化に関する研究」」
  16. Makino Inc.(牧野フライス製作所の米国法人)「Machine layup suggestions(2020年3月23日。機械を長く止めるときの勧め。形彫り・ワイヤ放電加工機を含む)」
  17. Makino Inc.(牧野フライス製作所の米国法人)「Tech Tip - Simple & Quick Energizer Indexing on Makino Wire EDM Machines」
  18. 大阪産業技術研究所「技術シート No.98018 金型製作における放電加工面のトラブル事例とその対策」
  19. 危険物保安技術協会「Safety & Tomorrow No.148(2013)危険物関係用語の解説(第23回)放電加工機」
  20. 危険物保安技術協会「放電加工機に係る試験確認基準の見直しに関する検討報告書(平成28年3月)」
  21. 札幌市消防局「札幌市火災予防条例 第14条の2(放電加工機)の趣旨と解説」
  22. 船橋市消防局「第16 放電加工機(条例第10条の2)の運用」
  23. 広島市消防局「広島市火災予防条例 第11条の2(放電加工機)の解説」
  24. 総務省消防庁「消防予第198号(平成3年9月30日)火災予防条例準則の一部改正について(放電加工機の基準の新設)」
  25. Entegris(POCO Graphite)「An Added Layer of EDM Knowledge(電極材の選び方と消耗)」
  26. 岩手県工業技術センター「研究報告(平成19年度)創成放電加工による微細穴の高精度化」
  27. Makino Inc.(牧野フライス製作所の米国法人)「EDBV3(細穴放電加工機。ダイガイドと電極の同時交換・中間ガイド・脱イオン水の管理)」