放電加工機のワイヤ・電極・加工液の手入れ

ワイヤガイド・給電子・フィルタ・イオン交換樹脂、形彫りの電極と放電加工油、細穴のパイプ電極とガイドの扱い方。周期・設定値・油種は機械メーカーの取扱説明書が最優先。ここにある値は公開資料に載っていた例。危険物を加工液に使う放電加工機は市町村の火災予防条例の対象で、設置の届出や貯蔵量の扱いは管轄の消防署の指導に従うこと

⚙手入れと点検

▦ワイヤ放電加工の加工液(水)の比抵抗・導電率の目安(公開資料の値)

資料書かれている値比抵抗に直すと導電率に直すと
静岡大学(技術報告)比抵抗 10⁴〜10⁶ Ω·cm 程度10,000〜1,000,000 Ω·cm100〜1 µS/cm
岩手大学(研究シーズ)導電率 10 µS/cm 程度約 100,000 Ω·cm10 µS/cm
ソディック(FAQ)50,000 Ω を下回ったら樹脂を交換50,000 Ω·cm20 µS/cm
Sunresin(樹脂メーカー)導電率 20 µS/cm 未満が必要50,000 Ω·cm 超20 µS/cm 未満

比抵抗(Ω·cm)と導電率(S/cm)は逆数の関係。ソディックの FAQ は単位を「Ω」と書いているが、ここでは比抵抗(Ω·cm)として換算した。実際の設定値は機械・加工条件・材質で決まるので、機械の取扱説明書に従う[19][9][1][8]

÷比抵抗と導電率の換算、温度による補正

  1. 比抵抗 ρ(Ω·cm)から導電率 κ(µS/cm)へ:κ = 1,000,000 ÷ ρ
  2. 導電率から比抵抗へ:ρ = 1,000,000 ÷ κ(kΩ·cm なら ÷1,000、MΩ·cm なら ÷1,000,000)
  3. 水の導電率は温度で変わる。25℃ に直すときは κ25 = κT ÷ (1 + 0.01 × α × (T − 25))。α は温度係数(%/℃)で、多くの水溶液は 2 前後
  4. 比べるときは、同じ基準温度(ふつう 25℃)に直した値どうしで比べる
換算
導電率(µS/cm)= 1,000,000 ÷ 比抵抗(Ω·cm)
温度補償(堀場の近似式)
C(T) = C(25) × (1 + 0.01 × α × (T − 25))。α は 0.5〜2.5 の範囲で、2% を入れておけばほとんどの水溶液に対応できる
計算例:条件
比抵抗 50,000 Ω·cm の水。また、30℃ で導電率 24 µS/cm を示した水
計算例:結果
50,000 Ω·cm = 20 µS/cm。30℃ の 24 µS/cm を α=2 で 25℃ に直すと 24 ÷ 1.10 ≒ 21.8 µS/cm(比抵抗で約 46,000 Ω·cm)(試算)

堀場は、純水に近い領域では別の温度補償(純水補償)が働くとしている。2% の近似は目安で、機械の比抵抗計がどの補償をしているかは取扱説明書で確かめる[20][1][9]

▦放電加工油の代表性状(メーカーの製品資料より)

製品(メーカー)引火点 ℃(試験法)動粘度 mm²/s(40℃)消防法の区分メモ
メタルワーク S(ENEOS)98(COC)2.54第4類 第3石油類合成炭化水素(イソパラフィン)
メタルワーク EDO L(ENEOS)86(PM)1.70第4類 第3石油類芳香族分 1% 以下の飽和炭化水素
メタルワーク EDF-K2(ENEOS)85(PM)2.29第4類 第3石油類三菱電機の放電加工機の推奨油
メタルワーク EDO-X(ENEOS)80(PM)2.54第4類 第3石油類高速の鉱油系
メタルワーク AF(ENEOS)106(PM)2.41第4類 第3石油類芳香族分 1% 以下
ダフニー カット HL-25(出光)87(PM)2.6—(引火点からは第3石油類の範囲)合成油
ダフニー マーグプラス ED3(出光)98(COC)2.5第3石油類形彫り・細穴全般
ダフニー マーグプラス ED5(出光)148(COC)6.0第3石油類形彫りの荒加工向き
ダフニー マーグプラス ED5-MF(出光)210(COC)5.78第4石油類高引火点

値は代表性状で保証値ではない。引火点は試験法(PM=ペンスキーマルテンス密閉式、COC=クリーブランド開放式)で値が変わるので、試験法の違う値どうしを単純に比べない。第3石油類は引火点 70℃以上 200℃未満、第4石油類は 200℃以上 250℃未満(消防法 別表第一 備考)。ダフニー カット HL-25 は資料に区分の記載がなく、引火点 87℃は第3石油類の範囲にある[11][21][13][22][23][15][24][25][14][26]

÷放電加工油の量と消防法の指定数量(倍数の計算)

  1. 放電加工機で扱う危険物の量は、加工液タンクの容量で見る(運転前は加工液の全量がタンクにあるため)
  2. 油の区分を製品資料で確かめる:第4類 第3石油類(非水溶性)の指定数量は 2,000 L、第4石油類は 6,000 L
  3. 指定数量の倍数 = 量 ÷ 指定数量。同じ場所で品名や指定数量の違う危険物を扱うときは、それぞれの倍数を足す
  4. 倍数が 1 以上なら消防法の許可を受けた施設(一般取扱所など)でなければ扱えない。1/5(0.2)以上 1 未満は少量危険物として市町村の条例の基準と届出の対象。0.2 未満でも、放電加工機そのものの条例の基準(安全装置・自動消火装置など)はかかる
倍数
指定数量の倍数 = Σ(各危険物の量 ÷ その指定数量)
第3石油類(非水溶性)
指定数量 2,000 L(1/5 は 400 L)
第4石油類
指定数量 6,000 L(1/5 は 1,200 L)
計算例:条件
第3石油類の放電加工油を、タンク 600 L の形彫り放電加工機 1 台で使う。同じ場所に予備の油 200 L(同じ区分)がある
計算例:結果
(600 + 200)÷ 2,000 = 0.4 倍。0.2 以上 1 未満なので少量危険物にあたり、条例の基準と届出が必要(試算)

ENEOS の製品資料は第3石油類について「2,000 L までは市町村条例の基準に従って貯蔵できる(400 L までは規制なし)」としている。危険物保安技術協会の基準は、使う量が 400 L 未満の放電加工機も対象にしている。最終的な判断は管轄の消防署に確かめる[27][26][11][28][29][12]

▦放電加工機の自動消火装置に必要な消火薬剤の量(最大防護面積 1 m² あたり)

消火薬剤の種類必要な量
水成膜泡5.0 L/m² 以上
機械泡(水成膜)5.0 L/m² 以上(新しい基準案で追加)
第1種粉末6.8 kg/m² 以上
第2種・第3種粉末4.0 kg/m² 以上
第4種粉末2.8 kg/m² 以上
ハロン 24026.8 kg/m² 以上
ハロン 1211・13016.2 kg/m² 以上

危険物保安技術協会の「放電加工機の火災予防に関する基準」(札幌市消防局の解説にも同じ表がある)。機械泡(水成膜)は 2016 年の見直しで消火実験をしたうえで加えられた[29][12]

÷自動消火装置の最大防護面積と薬剤量の計算

  1. 加工槽(方形)の 2 辺 a(長辺)・b(短辺)を測る
  2. a ÷ b が 2 以下なら、最大防護面積 S = a × b
  3. a ÷ b が 2 を超えるなら、短辺を a ÷ 2 とした長方形で、S = a × (a ÷ 2)
  4. 必要な薬剤量 = S × 表の量(薬剤の種類ごと)
最大防護面積
S = a × b(a/b ≦ 2)、S = a × a/2(a/b > 2)
薬剤量
必要量 = S × 単位面積あたりの量(例:水成膜泡 5.0 L/m²、第3種粉末 4.0 kg/m²)
計算例:条件
加工槽の内寸 1.0 m × 0.6 m、水成膜泡の装置
計算例:結果
1.0 ÷ 0.6 ≒ 1.7(2 以下)なので S = 0.6 m²、必要量 = 0.6 × 5.0 = 3.0 L 以上(試算)

最大防護面積は加工槽内の加工液の露出面積をいう。装置には薬剤の種類と量・最大防護面積・放射時間・感知部の種類と作動温度などの表示がある。表示どおりの能力があるかは装置メーカー・機械メーカーに確かめる[29][12]

📚出典

印のない項目は、別々の発行元の資料 2 つ以上で一致したものです。数値・周期は機種ごとの指定が優先します。文はケズリバの言葉でまとめています。

  1. ソディック「よくあるご質問(サプライ品):ワイヤガイド・フィルタ・イオン交換樹脂・パイプ電極・加工液」
  2. ソディック「サプライ品 周辺機器(垂直出し治具・ワイヤテンションメーター・超音波洗浄器・中間ガイドなど)」
  3. Makino Inc.(牧野フライス製作所の米国法人)「Tech Tip - Simple & Quick Energizer Indexing on Makino Wire EDM Machines」
  4. ソディック「よくあるご質問(ワイヤ放電加工・形彫り放電加工)」
  5. MANN+HUMMEL(フィルタメーカー)「MANN+HUMMEL EDM filters(放電加工機用フィルタの主力品)」
  6. 三菱電機「The Art of Manufacturing 特集論文「世界戦略ワイヤ放電加工機“MVシリーズ”」第3回(ランニングコスト:フィルタ・イオン交換樹脂)」
  7. 三菱電機「三菱電機技報 Vol.100 No.4(2026)新型ワイヤ放電加工機“MGシリーズ”」
  8. Sunresin New Materials(イオン交換樹脂メーカー)「Mixed Bed Resin for Slow Wire Cutting EDM」
  9. 岩手大学「研究シーズ 機-12「水中での鉄系金属の防食方法」(ワイヤ放電加工の加工水の防食)」
  10. 沖電気工業(OKI テクニカルレビュー。執筆はグループ会社の OKI 電線)「OKI テクニカルレビュー 第237号(2021)金属面の高精度加工を実現する放電加工機用電極線」
  11. ENEOS「商品紹介 IND-6005-2405 メタルワーク S(放電加工専門油)」
  12. 札幌市消防局「札幌市火災予防条例 第14条の2(放電加工機)の趣旨と解説」
  13. ENEOS「商品紹介 IND-6019-2405 メタルワーク EDF-K2(三菱電機放電加工機推奨加工油)」
  14. 出光興産「潤滑油製品資料 ダフニー マーグプラス ED5-MF(高引火点放電加工油)」
  15. 出光興産「潤滑油製品資料 ダフニー カット HL-25(放電加工油)」
  16. Entegris(POCO Graphite)「An Added Layer of EDM Knowledge(電極材の選び方と消耗)」
  17. 岩手県工業技術センター「研究報告(平成27年度)ごく細パイプ電極を使用した細穴放電加工」
  18. 岩手県工業技術センター「研究報告(平成19年度)創成放電加工による微細穴の高精度化」
  19. 静岡大学「技術報告「ワイヤ放電加工機を利用した細穴加工」(工学部 装置開発系技術室)」
  20. 堀場アドバンスドテクノ(堀場製作所グループ)「エンジニアリングシート HE-480C 電気伝導率変換器(温度補償演算について)」
  21. ENEOS「商品紹介 IND-6060-2405 メタルワーク EDO L(放電加工専用油)」
  22. ENEOS「商品紹介 IND-6113-2405 メタルワーク EDO-X(高速鉱油系放電加工油)」
  23. ENEOS「商品紹介 IND-6002-2405 メタルワーク AF(放電加工専用油)」
  24. 出光興産「潤滑油製品資料 ダフニー マーグプラス ED3(形彫り・細穴放電加工油)」
  25. 出光興産「潤滑油製品資料 ダフニー マーグプラス ED5(形彫り放電加工油)」
  26. 総務省消防庁「消防法(昭和23年法律第186号)第10条・第11条の4・別表第一 備考 e-Gov 法令検索」
  27. 総務省消防庁「危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)別表第三(指定数量) e-Gov 法令検索」
  28. 危険物保安技術協会「Safety & Tomorrow No.148(2013)危険物関係用語の解説(第23回)放電加工機」
  29. 危険物保安技術協会「放電加工機に係る試験確認基準の見直しに関する検討報告書(平成28年3月)」