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汎用フライス盤の主軸・アーバ・送りの手入れ
R8 コレットとドローバー、横フライス盤のアーバ、ギブとバックラッシ、主軸頭の傾き(トラミング)と変速レバーの扱い。周期・油種・締付けトルク・許容値は、手元の機械の取扱説明書が最優先。ここにある値は公開資料に載っていた例(海外の小形タレット形フライス盤の取扱説明書や、国内メーカー 1 社の検査成績表など)で、機種によって違う。ギブ・主軸頭の調整は、主軸と送りを止め、電源を切ってから行う
⚙手入れと点検
- コレットの内側と工具のシャンクは乾いた清浄な状態にし、外側の滑る面だけを薄く潤滑するR8 コレット・主軸テーパ
新しい工具・コレットは防錆油を落としてから使う。工具に付いた案内面の油や切削液も時々落とす。コレットは工具径に合ったものを使い、ドローバーで奥まで引き込む
Tormach の引抜き試験では、コレットの内側の扱いを誤ると工具の保持力が約 66% 下がり、ドローバーまわりの潤滑と手入れを怠ると約 70% 下がった。保持力は扱い方しだいで約 600〜3750 lb(約 2.7〜16.7 kN)まで変わった Baileigh は「コレット内で工具が滑る」原因に、コレットが奥まで入っていない・径が合わない・合わせ面のごみを挙げている。カリフォルニア大学リバーサイド校は、工具径とコレットの径を必ず合わせるよう書いている[1][2][3]
- 手締めのドローバーは締めすぎない。ねじが減ったら交換するドローバー
Tormach は、ふつうは 30 ft·lb(約 41 N·m)を超えなくてよく、きびしい加工でも 40 ft·lb(約 54 N·m)としている。軽い加工・小径工具ならそこまで要らない
締めすぎるとコレットとドローバーの寿命が縮む。ドローバーの座面のかじりは旋盤で直せることが多いが、ねじの摩耗が目立てば交換時期。ドローバーを替えるときはコレットも一緒に替えるとよい(Tormach)[1](資料1件・参考)
- R8 のキー溝は位置合わせ用で、回転の力を伝えるものではないと心得るR8 主軸のキー(回り止めピン)
ドローバーを十分に締め、テーパに無理なトルクをかけない
ドローバーの締付け不足やテーパへの過負荷で、主軸の中の回り止めピンがせん断されることがある(Tormach)[1](資料1件・参考)
- パワードローバーは主軸が止まってから、ブレーキを掛けて操作するパワードローバー
Baileigh:エアを 90 psi に合わせ、機械を止め、主軸ブレーキを握ったまま締め(白)・緩め(黒)のボタンを押す。カリフォルニア大学リバーサイド校:クイルを一番上に上げてロックし、工具とコレットを手で支えてからボタンを押す(支えないと落ちて傷む)。入れるときはコレットのキー溝を主軸のキーに合わせる
回転中にパワードローバーを動かすと、ドローバーと主軸を傷める(Baileigh) Tormach は、ドローバー上部の皿ばね(座金の重ね)の割れ・枚数を時々確かめ、年1回替えるよう勧めている(同社のパワードローバー付き機の例)[2][3][4]
- アーバはできるだけ短いものを使い、アーバ支えをカッタの近くに置くフライス盤用アーバ・アーバ支え
アーバはドローバーで主軸テーパに引き込んで固定する。外すときはドローバーを戻してから端をたたいてテーパを抜く。アーバの先はオーバアームに付けたアーバ支えの軸受(ブシュ)で支える。軸受カラーを動かせる形のアーバ(Style B)は、支えをカッタの近くに置けるので重切削に向く
アーバの支えが遠いとたわみやすい。米国陸軍の教本は、加工に合う最も短いアーバを使うよう教えている アーバナットを機械の動力で締めようとしない(同教本の安全規則)。アーバと附属品の形状・寸法は JIS B 6104(ISO 839-1・839-2 を修正採用)が決めている[5][6]
- フライスは切れる状態に保ち、ぶつけずに保管するフライス(カッタ)
適正な回転速度で使い、使える所では切削油を使う。バイスの口金・チャック・ボルトに当てない。切れなくなったものは印を付けて研削に回す。保管前に清掃して薄く油を塗る
速すぎる回転は過熱で摩耗を早め、切れ味の落ちた刃は動力をよけいに使い、その熱で刃先が軟らかくなる(米国陸軍の教本)[5](資料1件・参考)
- ギブは、ガタがなく、しかも案内面が渋くならない所に合わせるギブ(くさび形の調整板)
ギブを締めると精度は上がるが動きが重くなり、ゆるめると軽いが精度が落ちる(Baileigh)。少しずつ締めながらガタ(ロストモーション)を測り、ガタが増え始める手前で止める(Tormach)
締めすぎると案内面に油膜を保てず摩擦が大きくなり、ゆるすぎるとガタが大きくなる(Tormach) Baileigh はギブの調整の前に電源を切るよう書いている[2][7]
- くさび形のギブは両端のねじで押し引きして調整し、終わったら両方のねじを必ず締めるギブ(各軸)
片側のねじを数回転ゆるめてから反対側を締め込み、ゆるめた側を締め戻す。テストインジケータで振れを見ながら繰り返す(エツキ)。機種ごとのやり方は下の表
ゆるめた側のねじを締め忘れたまま動かすと、くさび形のギブがすき間に食い込み、サドル・テーブル・ひざが動かなくなる(エツキ)。Tormach も、調整後は両方のねじを締めておかないとギブがずれると注意している[8][2][7]
発行元 やり方 エツキ(ひざ形立て。厚労省のマニュアルの巻末資料) サドル(Y):前後のゴムキャップを外し、後ろのねじを約3回転ゆるめ、前のねじを1〜2回転締め、後ろを締め戻す。テーブル(X):右側(薄い側)を約3回転ゆるめ、左側(厚い側)を締め、右側を締め戻す。ひざ(Z):上下ギャップが小さいときは下をゆるめて上を締め、大きいときは上をゆるめて下を締める Baileigh Industrial(タレット形) テーブル:左端の調整ねじを右回しし、手で動かして少し引きずる感じが出るまで。サドル:蛇腹カバーと切りくず払いの板を外し、穴から同様に。ひざ:切りくず払いを外して同様に。ラム:止めナットをゆるめ、マイナスドライバで2本の調整ねじを回し、止めナットを締め戻す Tormach(小形の CNC フライス盤。蟻溝の案内) 一度ギブを十分ゆるめてガタを測り、1回転ずつ締めては測り直す。ガタが増え始めたら一つ手前に戻す。Z 軸を調整するときは主軸頭を木のブロックで支える。X と Y は互いに影響するので片方だけで決めない - ひざのギブは締めすぎても、ゆるめすぎても精度を損なうひざ(Z 軸)のギブ
エツキの目安は、バイスの口金付近にインジケータを当ててひざを上下させたときの振れ(上下ギャップ)が 5 µm 以内
締めすぎると案内面の抵抗でひざが上下のたびに傾き、穴が長穴になる。ギブと案内面の異常摩耗にもつながる。ゆるめすぎるとひざ全体が下がって前下がりになり、案内面の上が開いて下だけが強くこすれる片減りが進み、ギブを締めても精度が戻らなくなる(エツキ) Tormach は、Z 軸のギブがゆるくて主軸頭が下を向いたのを、コラムの付け根にシムを入れる「トラムの調整」で直してしまい、機械が平行四辺形にゆがんだままになる失敗例を挙げ、原因を決めつけないよう注意している[8][7]
- 送りのガタ(ロストモーション)を測り、上向き削りと下向き削りでの扱いを分ける送りねじ(バックラッシ)
ダイヤルインジケータを軸の動きの向きに当て、一方向に送って 0 に合わせ、決まった量だけ進めて戻したときの読みの残りをガタとする(Tormach。無負荷で測る)
ガタには、ギブと案内面の油膜のすき間、送りねじを支える軸受のすき間などが含まれる(Tormach)。工作物をフライスの回転に逆らって送る上向き削りでは、切削力でねじのガタが片寄せされる。下向き削りではガタとたわみをできるだけなくさないと、工作物が引き込まれたり食い込んだりする(米国陸軍の教本) 加工した部品の寸法は、工具や工作物のたわみ・熱でも変わるので、機械の精度の指標にはならない(Tormach)。汎用機の送りねじナットのバックラッシの調整手順は、公開資料では見つからなかった[7][5]
- 使わない軸はクランプし、締めすぎないテーブル・サドル・ひざのクランプ
テーブルの左右送りだけで削るときは、ひざをコラムに、サドルをひざにクランプする。サドルのクランプはほどほどの力でよい。テーブルの左右を使わないときはテーブルのクランプを締める
剛性が上がり、振動を抑えて重い切込みができる。クランプを強く締めすぎるとテーブルが少し渋くなる(Baileigh)[2](資料1件・参考)
- 送りの向きを変えるときは、いったん止めてから切り替えるテーブルのパワーフィード
方向レバーを OFF に戻し、テーブルが完全に止まってから反対に入れる。早送りボタンは位置決め用で、削っている最中には使わない。リミットの当て金(トラベルストップ)は各軸 2 個あり、当たるとパワーフィードが切れる。サーキットブレーカが落ちたら押して戻す
高速で動いている最中に急に向きを変えると、パワーフィードの歯車を傷める(Baileigh)[2](資料1件・参考)
- 主軸頭を傾けたあとの締付けボルト・ナットは、指定のトルクで締める主軸頭の傾き(チルト・ノッド)の締付けボルト
機種ごとの値は下の表。締め終えたらトラムを測り直す
Baileigh は、締めすぎるとクイルがゆがむと注意している[9][10]
発行元 箇所 トルク Baileigh Industrial(VM-949) 主軸頭を傾ける 4 個の止めナット 25 ft·lb(約 34 N·m) ワシントン州の職業教育教材 チルトの 4 個、ノッドの 3 個(6 個の機種もある) 50 ft·lb(約 68 N·m) - 高低速の切替えは、モータを止めてから行う主軸頭の高低速(Hi–Neutral–Lo)レバー
主軸を手で少し回すと、クラッチや歯車がかみ合いやすい。中立(Neutral)は主軸を手で自由に回せる位置で、芯出しや段取りに使う
Baileigh・カリフォルニア大学リバーサイド校とも、回転中の切替えを禁じている 高速(直結)ではテーパ状のクラッチの歯で主軸を回す。かみ合いが浅いとクラッチの音(ガラガラ音)が出るので、クラッチの摩耗に合わせて位置決め板(デテントプレート)を上げる。中立が出なくなったら位置決め板を裏返す(Baileigh)[2][3]
- 無段変速のハンドルは、主軸を回した状態で回す可変速(無段変速)の主軸頭
回転数は主軸頭の表示(高速用・低速用の 2 つの目盛)で読む
カリフォルニア大学リバーサイド校の Bridgeport 形の例。インバータで変速する機種もあり、操作は取扱説明書による[3](資料1件・参考)
- 主軸は手で止めず、スイッチを切ったあとブレーキで止める主軸ブレーキ
Baileigh のブレーキはレバーを上下させて止める方式で、調整の機構はなく、減ったら交換する。新潟大学の実習機は、ブレーキを掛けた設定にすると停止ボタンで急停止し、その後もブレーキが働く(工具交換のときにも使う)
- クイルの自動送りが、ストッパで自動的に外れることを確かめるクイルの自動送りの外れ(フィードトリップ)
工場で自動的に外れるよう調整してある。ずれたら、トリップロッドの下の六角穴付き止めねじで直し、上下両方向で外れることを確かめる。下向きはクイルストップのナットがトリップレバーに、上向きは反転トリップのボールレバーに当たる位置にする
[2](資料1件・参考)
▦ギブのガタ(振れ)の測り方と目安(エツキのひざ形立てフライス盤の例)
| 軸 | 測り方 | 出荷時の値 | 調整の目安 |
|---|---|---|---|
| Y(サドル) | サドルの左端に 1 目盛 2 µm のインジケータを当てて 0 に合わせ、テーブルの端を力いっぱい前後に振る | 3〜4 µm | 当たりが悪いと 10〜30 µm 振れる。前後のねじで調整し、振れをできるだけ小さく |
| X(テーブル) | テーブルにインジケータを当てて前後に振る(サドルの振れを含む総合の値。8 µm ならサドル 4 µm を引いてテーブル 4 µm) | 総合 4〜8 µm | 10 µm 以内 |
| Z(ひざ) | ブロック(またはバイスの基準側)にインジケータを当て、Z のハンドルでひざを上下させて最大の振れ(上下ギャップ)を読む | バイスの口金付近で 4〜5 µm | 5 µm 以内 |
厚労省のものづくりマイスター用マニュアルの巻末資料(株式会社エツキの提供)。サドルのギブの当たりが悪いとテーブルの左右運動と上面の平行度(JIS では左右全移動で 0.03 mm 以内。出荷時は 0.01 mm 前後)が出ないが、この値は Z・X のガタを含んだ総合の値なので、締めればよいわけではない。ほかの機械では取扱説明書の値に従う[8](資料1件・参考)
▦資料に出てくる締付けトルク(ft·lb)と N·m の換算
| 箇所 | 資料の値 | N·m(1 ft·lb = 1.356 N·m で換算) | 発行元 |
|---|---|---|---|
| 主軸頭を傾ける止めナット(VM-949) | 25 ft·lb | 約 34 N·m | Baileigh Industrial |
| 手締めドローバー(ふつうの加工) | 30 ft·lb まで | 約 41 N·m | Tormach |
| 手締めドローバー(きびしい加工) | 40 ft·lb | 約 54 N·m | Tormach |
| 主軸頭のチルト・ノッドの締付けボルト | 50 ft·lb | 約 68 N·m | ワシントン州の職業教育教材 |
÷トラミング(主軸頭の直角出し)の手順と調整量
- バイスを外し、テーブルを中央に置く。クイルを一番上に上げてロックし、主軸頭は中立にする(ワシントン州の教材)
- 主軸にトラミング用の腕を付け、先にインジケータを付ける。腕は主軸の中心から 4 インチ(約 100 mm)以上とどくものを使う
- ひざを上げてインジケータを 0.020 インチ(約 0.5 mm)ほど押し込み、ひざをロックする。押し込みすぎると T 溝を越えるときに強く当たって読みが狂う。きさげの跡や傷のない所で測る
- 主軸を手で回し、左右(3 時と 9 時)、前後(12 時と 6 時)の読みを比べる
- 左右の傾き(チルト):主軸頭の正面の 4 個の締付けナットをゆるめ、ウォームで読みの差の半分だけ戻す(回転の中心が 2 点の真ん中にあるため)。締め付けて測り直す
- 前後の傾き(ノッド):ラムの 3 個(6 個の機種もある)のボルトをゆるめて調整する。回転の中心が遠いので、2 点の読みが同じ向きに違う速さで動き、半分戻しでは合わない。少しずつ動かして測り直す
- 4 点の読みがそろうまで繰り返す。片方を直すと、もう片方がずれることがある
- 左右の調整量
- 戻す量 =(右の読み − 左の読み)÷ 2(ワシントン州の教材・カリフォルニア大学リバーサイド校の「読みの半分」)
- 調整を始める目安
- 左右・前後の差が 0.001 インチ(約 0.025 mm)を超えたら(ワシントン州の教材)
- 検査成績表の許容値
- 振り回し直径 300 mm について 0.02 mm。テーブルの前端が低くてはいけない(エツキのひざ形立てフライス盤の検査成績表。精度の点検の項)
- 計算例:条件
- 左右の読みの差が 0.04 mm だったとする(説明のための例)
- 計算例:結果
- ウォームで 0.02 mm 分だけ戻すと、左右が同じ読みに近づく。そのあと前後を合わせ、もう一度左右を確かめる
Baileigh は、テーブルはふつう前側がわずかに(約 0.0005 インチ=約 0.013 mm)高く仕上げてあると書いている。主軸頭を大きく傾けたあとは、ウォームだけで頭を起こそうとしない(安全の項)[10][3][2]
📚出典
印のない項目は、別々の発行元の資料 2 つ以上で一致したものです。数値・周期は機種ごとの指定が優先します。文はケズリバの言葉でまとめています。
- Tormach「770M Knowledge Base: Preventing Collet Slip(R8・TTS のコレットの保持力試験と推奨)」
- Baileigh Industrial(JPW Industries)「Operator's Manual VM-1054-3 Vertical Milling Machine(Rev. 3/2013)」
- カリフォルニア大学リバーサイド校 機械工学科「Machine Shop Standard Operating Procedures for Manual Milling Machines(V5、2011-11-15)」
- Tormach「770M Knowledge Base: Chatter」
- 米国陸軍(TRADOC)「TC 9-524 Fundamentals of Machine Tools(1996-10-29)第8章 Milling Operations(everyspec.com の写し)」
- 日本規格協会(JSA)「JIS B 6104:1998 フライス盤用アーバ及びその附属品―形状・寸法 書誌」
- Tormach「PCNC 440 Knowledge Base: Lost Motion Testing and Gib/ACB Adjustment」
- 厚生労働省「技能競技大会を活用した人材育成の取組マニュアル フライス盤職種編(巻末参考資料2:株式会社エツキ提供のギブ調整手順・静的精度検査方法・検査成績表を含む)」
- Baileigh Industrial(JPW Industries)「Operator's Manual VM-949-1/3 Vertical Milling Machine(Rev. 04/2015)」
- ワシントン州コミュニティ・テクニカルカレッジ委員会(WA Open ProfTech、Wenatchee Valley College 制作)「Introduction to Machining 9.5 Work Setup(主軸頭のトラミング・バイスの直角出し。CC BY 4.0、LibreTexts 掲載)」
- 新潟大学 工学部「第10章 万能フライス盤による加工(実習テキスト、操作盤説明の主軸ブレーキ)」