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PEEK など樹脂の切削:金属との違い・切削条件と工具・アニール・寸法と樹脂の歯車

樹脂は熱と水で伸び縮みするんだ。削った直後に測ると、明日には寸法が違うかも

マスコットのチップス
PEEK など樹脂の切削:金属との違い・切削条件と工具・アニール・寸法と樹脂の歯車

PEEK・POM・ナイロン(PA)などの樹脂は、金属と同じ旋盤・マシニングで削れます。それでも「削ったあとに寸法が変わる」「穴が小さくなる」「割れる」「バリが取れない」と困るのは、樹脂が熱を逃がさず、弾性で戻り、温度と水で伸び縮みする材料だからです。この記事では、金属との違い、樹脂の種類と使いどころ、切削条件と工具、冷やし方、アニールと寸法の安定、温度による寸法変化の計算機、つかみ方とバリ、ガラス・炭素繊維入りの工具摩耗、そして樹脂の歯車と人型・協働ロボットの関節での使われ方を、樹脂メーカーの技術資料・JIS・論文をもとにまとめました(2026 年 10 月時点)。

① 刃先まわり(旋削の断面の模式図)刃の進む向き熱が逃げにくく刃先と表面にこもる刃が通ったあと弾性で少し戻る点線=刃が通った位置エアで冷やす切りくずはつながって伸びやすい鋭い刃・正のすくい角・大きめの逃げ角で、こすらず切る② 削ったあとの寸法の動き穴は縮む点線=ドリル径外径は太る点線=刃の位置ずれは樹脂・肉厚・刃の切れ味で変わる。外径は公差の下側、穴は上側を狙い、荒削りのあと時間を置いてから仕上げる。模式図。戻り・縮みの量は大きく描いている。樹脂メーカー(MCAM・Victrex)の加工ガイドの注意をもとにケズリバで作図。
樹脂を削るときに起きること。熱は刃先と表面にこもり、刃が通ったあとは弾性で少し戻る。そのため穴は縮み、外径は太る傾向がある[1][2]。

樹脂は金属と何が違うか

同じ「削る」でも、樹脂は次の 5 つの点で金属とふるまいが違います。どれも寸法と仕上げ面に直接効きます。

違い何が起きるか現場での手当て
熱が逃げない熱伝導が低く融点も低いので、熱が刃先と表面にこもる。溶ける・べたつく・応力が残る[1][3]切りくずを素早く逃がす。エアで冷やす。こすらず切れる鋭い刃
やわらかく戻る弾性率が金属より低く、強くつかむとゆがむ。刃が通ったあとに戻り、穴は縮み外径は太りやすい[2][1]つかむ力を弱く、削り代は対称に。寸法は外径を下側・穴を上側で狙う
よく伸び縮みする線膨張係数は鋼の約 4〜17 倍(下のグラフ)。手の熱や切削熱で測った値が変わる冷めてから 20 ℃ 近くで測る。計算機で温度の分を見積もる
水を吸うナイロンは水中で重さの最大約 7% の水を吸い、寸法が最大約 2% 変わりうる[5]。PEEK・POM はずっと少ない吸湿する材料は保管と測る環境をそろえる。精密部品には吸水の少ない樹脂
薬品で割れるPC・PEI などの非晶性樹脂は、鉱油系の切削油で応力割れを起こすことがある[1][4]エアか水溶性で。使ったら IPA と純水で洗う

「少しずつ変形する」にも注意樹脂は荷重をかけ続けると時間とともに変形が進みます(クリープ)。強く締めたボルトの座面、圧入、長時間の固定具のつかみ跡が戻らないことがあるので、締め付け部には金属のカラーを入れる、つかむ面を広くするなどの手当てをします。

樹脂の種類と使いどころ

削り出しによく使う樹脂を、使える温度・伸び縮み・吸水と、削るときの注意で並べました。値は樹脂メーカーの代表値で、メーカー・グレードで変わります。材料ごとの詳しい値と出典は材料データベースにもあります。

樹脂連続使用温度の目安線膨張係数
(×10⁻⁵/K)
吸水(23 ℃ 水中)削るときのひとこと
POM-C(ポリアセタール)100 ℃1424 h 0.05%・96 h 0.1%巣がなく削りやすい定番。ギヤ・すべり部品[16]
PA6(注型ナイロン)100 ℃12飽和 6.5%吸水で寸法が動く。大きな部品・ローラー[17][18]
UHMW-PE80 ℃1824 h 0.01%やわらかく逃げる・溶着しやすい。送りと速度を上げて切りくずを離す[22][1]
PTFE260 ℃10〜130.01%強度が低く伸び縮みが大きいので、狭い公差は設計段階から相談[20][21]
PC(ポリカーボネート)120 ℃824 h 0.03〜0.06%非晶性。鉱油系の切削油で割れることがある[19][1]
PPS230 ℃約 6(100〜150 ℃ は約 11)0.01% 以下ガラス転移 97 ℃ を超えると膨張がほぼ倍。強化グレードは PCD[11][12]
PEI170 ℃524 h 0.05%・96 h 0.1%非晶性(ガラス転移 216 ℃)。切削油の応力割れに注意[10][1]
PEEK260 ℃5(Tg 143 ℃ 超は 12)24 h 0.02〜0.03%・飽和 0.45%高価なので荒取りの段取りが大事。250 ℃ まででアニールできる[6][7][1]
PEEK GF30・CF30260 ℃4(押出方向)24 h 0.02〜0.03%繊維が工具を削る。PCD・CVD ダイヤモンド工具[8][9][1]
PAI(ポリアミドイミド)210 ℃4.3吸湿で寸法が変わる硬くて強い。強化グレードは PCD[13][14][1]
PI(ポリイミド)290 ℃4.3〜4.4(50〜200 ℃)24 h 0.47%切削速度は 25〜100 m/min と低め。PCD が最良[15][1]

連続使用温度・線膨張係数・吸水は Ensinger の製品ページ(POM-C は TECAFORM AH、PA6 は TECAST T、PI は TECASINT 2011、PAI は TECAPAI CM XP403 など)の代表値。PA6 の飽和吸水は MCAM、PEEK の飽和吸水と Tg は Victrex。

線膨張係数(×10⁻⁵/K、室温〜100 ℃ 前後の代表値)05101520S45C(鋼)1.2SUS3041.7A6061(アルミ)2.4PEEK CF30(押出方向)4PEEK GF30(押出方向)4PAI4.3PI4.3〜4.4PEEK4.5〜5PEI5PPS約 6(100 ℃ 超は約 11)PC6.5〜8PA68〜12PTFE10〜13POM-C12.5〜14UHMW-PE18〜20樹脂は Ensinger・MCAM・Victrex、金属は Ovako(C45)・日本製鉄・Kaiser Aluminum の資料。強化グレードは押出方向の値で、直角方向は大きくなる。
線膨張係数の比較。同じ 100 mm でも、温度が 10 ℃ 違うと S45C は約 0.012 mm、PEEK は約 0.05 mm、POM は約 0.14 mm 伸び縮みする[6][16][23][24][25]。

選ぶときの目安安くて削りやすいのは POM。水まわりで寸法を守りたいなら PA は避ける。100 ℃ を超える所や薬品・蒸気には PPS・PEEK、もっと熱い所や強さが要るなら PAI・PI。寸法の安定と温度の両方が要る精密部品で PEEK がよく選ばれるのは、線膨張が樹脂の中では小さく、吸水も少なく、250 ℃ でアニールできるからです[6][1]。

切削条件の目安と工具

樹脂メーカーの加工ガイドの値を並べました。どれも出発点で、機械・つかみ方・部品の形で調整します。三菱ケミカルグループ(MCAM、旧 Quadrant)の表は樹脂をいくつかの群に分けています[1]。

樹脂の群(MCAM の表)旋削 速度・送りフライス 速度・送りドリル 速度・送り工具
POM・PA・UHMW-PE など200〜500 m/min・0.05〜0.5 mm/rev200〜500 m/min(POM は〜400)・0.5 mm/刃以下50〜100 m/min・0.1〜0.3 mm/revHSS か超硬
PC・PEI・PSU・PPSU200〜400・0.05〜0.4200〜400・0.4 以下50〜100・0.1〜0.3超硬
PEEK(無充てん)・PAI(無充てん)・PET200〜400・0.05〜0.5150〜300・0.4 以下50〜80・0.1〜0.3超硬
GF・CF 入りの PEEK・PAI・PPS、PA66 GF30100〜200・0.05〜0.375〜150・0.3 以下50〜80・0.1〜0.3超硬か PCD・CVD
PI・PBI25〜100・0.05〜0.225〜100・0.15 以下25〜50・0.1〜0.3超硬か PCD・CVD

刃の角度は、旋削・フライスとも逃げ角 5〜15°、すくい角 0〜10°(フライスは 0〜15°、PI・PBI の旋削は 3〜5°)。ドリルは逃げ角 5〜10°、すくい角 3〜5°、先端角 90〜120°[1]。

PEEK については樹脂メーカーの Victrex も条件を出しています。無充てんの PEEK は、旋削で切削速度 100〜300 m/min・送り 0.1〜0.7 mm/rev・逃げ角 5〜15°・上すくい角 5〜15°・切込み 1〜6.5 mm、フライスは超硬で 180〜230 m/min、ドリルは 120 m/min・送り 0.05〜0.20 mm/rev・先端角 118° です[2]。MCAM より速度の下限が低く送りの上限が大きいので、二つの資料の重なる所(旋削 200〜300 m/min・送り 0.1〜0.5 mm/rev あたり)から始めると無難です。

  • 刃は鋭く、すくい角は正か 0°:樹脂は「こする」と熱が出て溶けたりむしれたりする。HSS でも削れるが、数が多いなら超硬が長持ちする[1]
  • 逃げ角は大きめ:刃が通ったあとに材料が戻ってくるので、逃げが小さいと逃げ面がこすって発熱する
  • エンドミルは 2〜3 枚刃・高ねじれ:切りくずのすき間を大きく取り、巻き付きを防ぐ[1]
  • 送りを落としすぎない:遅すぎると同じ所をこすって熱がたまる。切りくずが途切れず出る条件を探す[1]
  • ダイヤモンド工具も減る:工具メーカーの研究所の報告では、単結晶ダイヤモンド工具で PEEK を削ると刃先が摩耗・損傷し、刃先処理で損傷のしかたが変わる[26]。鏡面のような仕上げでも工具の寿命管理は要る

冷やし方:エア・水溶性・切削油

樹脂は、穴あけと突切りを除けば切削液なしで削るのが基本です。仕上げ面と公差が要るときは、芳香族を含まない水溶性の切削液やミスト・圧縮エアが効きます[1]。

非晶性樹脂に鉱油系の切削油は使わないPC・PPSU・PEI・PSU などの非晶性樹脂は、鉱油系の切削油で応力割れ(ケミカルクラック)を起こすことがあります。切削液を使ったら、加工後すぐにイソプロピルアルコール(IPA)と純水で洗います[1][4]。削った直後に割れが見えなくても、油が残っていれば安心できません。

一方、結晶性で薬品に強い PEEK は、Victrex が水系・油系どちらの切削液も使えるとしています[2]。深い穴(径の 2 倍を超える深さ)は発熱しやすいので、切削液を使い、ステップ送りで切りくずを抜きます[1]。

冷やすとバリも減ります。生体用樹脂のマイクロフライス(微細な溝加工)の研究では、16 ℃ のエアでは幅 185 µm のバリで溝がふさがったのに、渦流管で −2.2 ℃ に冷やした空気を当てると 70 µm まで減りました。樹脂が冷えて硬い側に寄り、ちぎれ方が変わるためです[28]。

アニールと寸法の安定

樹脂の素材(板・丸棒)には、押出や成形のときの応力が残っています。削って表面を取ると応力の釣り合いがくずれて反り、削ったときの熱でも新しい応力が入ります。これを抜くのがアニール(応力除去の熱処理)です[2][1]。

樹脂保持温度(MCAM)雰囲気
PE-UHMW・PC130 ℃空気・窒素(PE は油も)
POM-C・POM-H・PET155 ℃空気・窒素・油
PA160 ℃(PA4.6・PA66 GF30 は 170 ℃)空気・窒素・油
PSU170 ℃空気・窒素
PPS・PEI・PPSU200 ℃空気・窒素
PEEK250 ℃空気・窒素

共通の手順:10〜20 ℃/h で上げ、肉厚 1 mm あたり 10 分保持し、5〜10 ℃/h で冷やす。室温に戻すのに肉厚 1 mm あたりさらに 3 分。炉内の温度は ±3 ℃ にそろえ、治具で形を押さえたまま冷えるまで外さない[1]。

アニールの温度の流れ(肉厚 10 mm の例、MCAM の推奨値の中央で計算)05010015020025001020304050℃時間(h)PEEK:250 ℃POM:155 ℃① 10〜20 ℃/h で上げる② 肉厚 1 mm あたり 10 分保持③ 5〜10 ℃/h でゆっくり冷やす(急いで冷やすと応力が戻る)PEEK:約 15 h で昇温+1.7 h 保持+約 29 h で冷却=約 46 h。POM:約 27 h。Victrex の PEEK の手順(200 ℃・1 mm あたり 1 時間・10 ℃/h で 140 ℃ 未満まで)は本文を参照。
アニールの温度の流れ。肉厚 10 mm の PEEK だと 2 日近くかかる。急いで冷やすと応力が戻るので、冷却がいちばん長い[1]。

Victrex は PEEK について別の手順を出しています。200 ℃ まで均一に上げ、肉厚 1 mm あたり 1 時間保持し、10 ℃/h で 140 ℃ 未満まで冷やしてから炉を切ります。高温で使う部品の寸法を安定させたいときは、使う最高温度より 20 ℃ 以上高い温度で保持します[2]。MCAM(250 ℃・10 分/mm)とは温度も時間も違うので、どちらの資料に従ったかを工程表に書いておきます。

  1. 荒加工:仕上げ寸法に、アニールで動く分と仕上げ代を足して残す[1]
  2. アニール:上の表の温度で。大きく削る部品は、最終仕上げの前にもう一度[2]
  3. 軽い仕上げ削り:切込みを小さく、刃を新しく。荒加工のあと 24 時間置くだけでも寸法は落ち着きやすい[1]

アニールを省きたいとき素材メーカーの板・丸棒は出荷前にアニールしてあるのが普通です。削り代が少なく、形が対称で、公差に余裕がある部品なら、荒・仕上げを続けて削っても問題にならないことが多くあります。反りが出たら、まず片面だけを大きく削っていないか(両面を均等に・押出の中心線に対して対称に)を見直します[1]。

寸法の狙いと測り方(計算機つき)

樹脂の部品を測るときに効くのは、温度と水分と削った直後かどうかです。JIS の寸法は 20 ℃ での値なので、樹脂のように伸び縮みの大きい材料は、測る温度の分を見込まないと合否がずれます(測定の誤差の基本)。

20 ℃ からの伸び(温度の分)—
吸水の分—
20 ℃・乾いた状態に直した寸法—
同じ長さ・温度の S45C の伸び—

温度の伸び ΔL = α × L × (T − 20)  α は選んだ材料の線膨張係数(×10⁻⁵/K) 20 ℃ に直した寸法 = L ÷ (1 + α (T − 20) + 吸水の伸び %/100)

線膨張係数は温度範囲の平均値で、グレード・方向(強化グレードは押出方向と直角で違う)・結晶化度で変わります。吸水の伸びは樹脂メーカーの資料に式が無いため、わかっている値を入れる欄にしました(ナイロンは水中で飽和すると最大約 2%[5])。

  • 削った直後に測らない:切削熱で膨らんでいる。冷めてから、できれば測定室の温度になじませてから測る
  • 手で長く持たない:手の熱で数 ℃ 上がると、100 mm の POM で 0.01 mm を超えて動く(計算機で確かめられる)
  • 外径は公差の下側、穴は上側を狙う:旋削の外径は太り、穴は縮む傾向がある。タップの下穴も実際の削れ方を確かめる[1]
  • どこまで詰められるか:MCAM の「最良の公差」の表では、寸法 10・50・100・200 mm で、PEEK・PEI・PPS・PC が 0.02・0.04・0.06・0.10 mm、POM・PA が 0.03・0.05・0.09・0.15 mm、HDPE が 0.05・0.08・0.15・0.26 mm、充てん PEEK が 0.02・0.03・0.05・0.08 mm。これより厳しい公差は特別な工具・工程が要り、費用が増えることがあると注記している[1]

つかみ方・バリ・仕上げ面

樹脂は弾性率が低いので、金属と同じ力でつかむとつかんだ形のまま削られ、外したあとに戻って形がくずれます。Victrex は、強いクランプで反りやゆがみが出やすいので削り代を均等に・対称に取るよう書いています[2]。

  • チャックは生爪・広い面で:薄肉のリングは、爪を成形して全周で受けるか、内径側に当て金(プラグ)を入れてからつかむ
  • 板はバイスより吸着・両面テープ・治具:締め付け力を分散する。片面だけを大きく削ると反るので、両面を均等に削る[1]
  • バリは「出さない」が先:バリは材料・工具の状態・送り・速度・冷やし方で決まる[28]。刃を鋭く保ち、抜け側は当て板やダウンカットで
  • バリ取りは熱をかけない方法で:刃物で軽く取るか、冷やしてから。やすりで強くこすると熱でまた溶けて盛り上がる

ガラス繊維・炭素繊維入りと工具摩耗

PEEK GF30(ガラス繊維 30%)や CF30(炭素繊維 30%)、PAI・PPS の強化グレードは、樹脂の部分はやわらかくても繊維が砥粒のように工具を削ります。MCAM は、ガラス・炭素繊維入りや黒鉛入りの樹脂には多結晶ダイヤモンド(PCD)か CVD ダイヤモンドの工具が必須と書いています。切削速度も無充てんの半分ほど(旋削 100〜200 m/min)に下げます[1]。Victrex も、研磨性のある強化グレードには超硬・コーテッド超硬・ダイヤモンド工具が必要としています[2]。

  • 切断は歯ピッチ 4〜6 mm の帯のこで:ふつうの丸のこは割れの原因になる[1]
  • 伸び縮みに向きがある:GF30・CF30 の線膨張係数は押出方向で 4×10⁻⁵/K。繊維の向きで値が違うので、寸法を測る向きを図面と合わせる[8][9]
  • 粉じんを吸わない:繊維入りの切りくずは細かい粉になる。集じんと保護具を

樹脂がやわらかいまま繊維を削ると、熱で樹脂が工具に溶着することもあります。PA66 を母材にした熱可塑性 CFRP(炭素繊維 45%)のトリム加工の研究では、切りくずが連続型になり、ダイヤモンド電着工具で研削すると、回転と送りを上げるほど溶けた樹脂が工具に付いてケバが出て、加工力が 49 N から 100 N 超に増えました。一方、気温より約 15 ℃ 低い冷風には、この条件では明らかな効果が見られませんでした[27]。強化グレードでは「冷やす」より先に、工具材種と速度で熱を出さないことが効きます。

樹脂の歯車:成形と切削、強さと摩耗

樹脂の歯車は、量産なら射出成形、試作・少量・大きな歯車・PEEK のような高価な材料では削り出し(ホブ切り・フライス)で作ります。軽く、静かで、潤滑なしでも回せ、さびないのが長所です[35]。歯切りの工具や歯車の基本は歯車の計算と歯車の勉強にまとめてあります。

規格何を決めているか削り出しの歯車への使い方
JIS B 1702-3:2020射出成形プラスチック円筒歯車の精度等級(歯面と両歯面かみ合いの偏差)。モジュール 0.1〜2.0 mm、基準円直径 1〜280 mm、歯数 3 以上、ねじれ角 45° 以下、歯幅 0.2〜40 mm[29]射出成形の歯車の規格。削り出しの歯車をどの規格・等級で指定するかは、図面と注文書で確かめる
JIS B 1759:2019プラスチック円筒歯車の歯元の曲げ強さの評価方法。運転試験で材料の許容曲げ応力を求め、呼び接線力に対する安全性を評価する。対応する国際規格はない[30]射出成形の歯車が対象だが、機械加工した歯車にも適用できる。ただし壊れ方が歯元の折損になる場合に限り、摩耗が極端に進んだときは使えない[30]

プラスチック歯車の強度の規格づくりは、精密工学会の成形プラスチック歯車研究専門委員会でも進められました。「プラスチック歯車をよく知らずに設計して事故を起こす」「うまく使えばコストを下げられるのに検討すらされない」例が多かったため、金属歯車の ISO 6336 にならった強度の計算の形を作り、まず POM の歯元の曲げ強さから、鋼のマスターギヤと無潤滑で回す耐久試験を基本に値を決めていきました[31][32]。

強さと摩耗:温度がすべてに効く

  • 寿命は曲げより摩耗で決まることが多い:押出の POM 棒から削り出した歯車を鋼・鋳鉄の歯車とかみ合わせて無潤滑で回した試験では、低速・長寿命の条件では折損より摩耗が使える限界を決め、相手が鋼のほうが鋳鉄より摩耗が少なかった[33]
  • 熱でバックラッシが減る:同じ研究の続報では、摩擦熱による膨張が摩耗より大きいと、運転中にバックラッシが運転直後より小さくなった。摩耗の速さは回転数より荷重で決まる[34]。樹脂歯車の中心距離・バックラッシは、温まったときの膨張を見込んで決める
  • 回転を上げれば寿命が延びるわけではない:POM 歯車(50 ℃ の油潤滑、一定トルク)の歯元折損の寿命は約 750 min⁻¹ で最大になり、それより速いと熱による壊れ方が勝って短くなった。歯元の丸みを応力集中の小さい形にすると、どの回転数でも寿命が延びた[35]。削り出しなら歯元の形を工具で作り込める
  • 荷重を上げると熱で溶ける:PVDF 歯車(モジュール 3・歯数 17、鋼のピニオン、無潤滑 1000 rpm)では、4 Nm で B10 寿命 6.3×10⁶ 回、6 Nm で歯元の温度が 123 ℃ に上がり、8 Nm では熱で溶けて壊れた[36]
  • 油を差せばよいとは限らない:PEEK と鋼のすべりでは、条件によって潤滑油を使ったほうが無潤滑より摩耗が悪化することがある[37]。潤滑剤は試験で選ぶ

PEEK の歯車は、樹脂メーカーの Victrex が「VICTREX HPG」として射出成形で作っており、金属歯車と比べて重さ 70% 減、慣性モーメント 80% 減、パワートレインの騒音・振動を最大 50%(3 dB)減らせるとしています。一工程の射出成形で、二次加工・焼入れ・仕上げを省けることもコストの理由に挙げています[38]。量産は成形、試作と少量は削り出し、という分担になります。

人型ロボット・協働ロボットの関節と樹脂歯車

人のそばで動くロボット(協働ロボット・サービスロボット・人型ロボット)では、関節の減速機を軽く・静かにしたいという要求が強く、樹脂の歯車を使う動きがあります。ここでは会社の発表と技術資料で確かめられた事例だけを挙げます(2026 年 10 月時点)。

関節のハウジングと腕金属か樹脂。中に減速機とモーターが入る薄い玉軸受カムの外側に付き、いっしょにたわむモーター(イメージ)配置は製品で違うウェーブジェネレータ(だ円のカム)回すと薄い歯車をだ円に押し広げるサーキュラスプライン(内歯車)固定側。歯数がわずかに多いフレクスプライン(薄い外歯車)樹脂化の対象。長軸の 2 か所でかみ合うイメージ図。実物ではフレクスプラインもだ円にたわみ、歯の大きさ・数・部品の比はこの絵と違う。
協働ロボットの関節に入る波動歯車装置(ハーモニックドライブ)の構成(イメージ図)。だ円のカムで薄い外歯車をたわませ、歯数のわずかに多い内歯車とかみ合わせて大きく減速する。樹脂化の対象は主に薄い外歯車と内歯車[40][39]。
会社何をしているか樹脂の歯車の使い方
リケン NPR ×
ハーモニック・
ドライブ・システムズ
2026 年 9 月 18 日、「樹脂製波動歯車装置」の共同開発に合意と発表。サービスロボット・ウェアラブル機器・小型モビリティなど人と空間を共有する用途で、人と接触したときの安全性と軽量化による消費電力の低減を狙う。将来の事業化を視野に入れた開発[39]リケン NPR はすでに、フレクスプライン(薄い外歯車)とリングギヤ(内歯車)をスーパーエンジニアリングプラスチックにした波動減速機を開発しており、用途に協働ロボット・スカラロボットの先端、精密機器、ヒューマノイドロボットの各関節・ハンドを挙げている[40]
igus2022 年 6 月のハノーバーメッセで、人型のサービスロボットの試作を発表。腕は同社のロボットアーム ReBeL で、腕 1 本あたり 2 kg を持てる[41]ReBeL の関節の中心は、潤滑なしで使える樹脂(トライボポリマー)の波動歯車に、モーター・エンコーダー・力制御・制御器を一体にしたもの[41]
VictrexPEEK の歯車(VICTREX HPG)を、自動車・ロボット・e モビリティ向けに設計から製造まで手がける[38]協働ロボットでは、金属の遊星歯車機構の代わりになるとしている。ロボットの具体的な採用先は公表していない[38]

書かなかったこと特定の人型ロボットが PEEK の歯車・部品を採用した、という報道やアナリストの見立ては、会社の発表で確かめられなかったため載せていません。樹脂の歯車がロボットの関節でどこまで使われるかは、上の開発の結果しだいです。

機械加工の立場から見ると、関節の樹脂歯車は量産では成形が中心になる見込みですが、試作・評価用の歯車、成形の金型、樹脂歯車と組む金属側の部品(ハウジング・軸・カム)は削りの仕事です。薄い樹脂の歯車を削るなら、この記事の「つかみ方」「アニール」「温度と寸法」がそのまま効きます。

よくある失敗 8 つ

  1. 削った直後に測って合格、翌日に不合格:切削熱と応力の戻りで寸法が動いた。冷ましてから測り、精密品は荒→アニール→仕上げ[1][2]
  2. 穴がゲージに入らない:樹脂の穴は加工後に縮む。下穴とリーマの径を実際の削れ方で決める[1]
  3. PC・PEI があとから割れた:鉱油系の切削油による応力割れ。エアか水溶性にし、使ったら IPA と純水で洗う[1]
  4. 板が反った:片面だけを大きく削った。両面を均等に、対称に削り、必要ならアニール[1]
  5. リングがだ円になった:チャックで強くつかみすぎた。生爪・当て金で全周を受ける[2]
  6. GF30 で工具がすぐ減る:繊維が工具を削る。PCD・CVD ダイヤモンド工具に替え、速度を下げる[1]
  7. UHMW-PE・PA が工具に巻き付く:送りが遅すぎる・刃が鈍い。送りと速度を上げ、2〜3 枚刃・高ねじれのエンドミルに[1]
  8. 樹脂の歯車が運転中に詰まった:温まって膨らみバックラッシが無くなった。膨張を見込んで中心距離・歯厚を決める[34]

よくある質問

樹脂を削るのに専用の工具は要りますか?
無充てんの POM・PA・PE なら、鋭い HSS か超硬の工具で削れます。量が多いなら超硬が長持ちします。ガラス・炭素繊維入りや PI は、PCD・CVD ダイヤモンド工具が要ります[1]。いずれも「鋭い刃・正か 0° のすくい角・大きめの逃げ角」が共通の条件です。
金属を削ったのと同じ工具を使ってもよいですか?
金属で使って刃先が丸くなった工具は、樹脂ではこすって熱を出し、むしれ・バリ・寸法の狂いの原因になります。樹脂用には新しい刃か、樹脂専用に分けた工具を使うのが無難です。
PEEK は必ずアニールが要りますか?
素材はメーカーでアニール済みのことが多く、削り代が少なく公差に余裕があれば省けることもあります。大きく削る・薄い・公差が厳しい・高温で使う部品では、荒加工のあとにアニールしてから仕上げます。条件は MCAM(250 ℃・10 分/mm)と Victrex(200 ℃・1 時間/mm)で違うので、どちらに従うかを決めておきます[1][2]。
樹脂部品の寸法は何 ℃ で測ればよいですか?
図面の寸法は 20 ℃ が基準です。測定室が 20 ℃ でないときは、上の計算機で温度の分を見積もり、公差に対して無視できるか確かめます。PEEK で 100 mm・8 ℃ の差なら約 0.04 mm 動き、±0.05 mm の公差なら無視できません。
ナイロンの部品が梅雨に寸法が変わりました。
ナイロンは水を吸って伸びます。水中で飽和すると重さで最大約 7% の水を吸い、寸法は最大約 2% 変わりうるとされます[5]。寸法の安定が要る所は POM・PEEK など吸水の少ない樹脂に替えるか、使う環境で寸法をそろえてから測ります。
樹脂の歯車は削り出しでも成形と同じ強さですか?
同じではありません。成形品と削り出しでは、表面の層・繊維の向き・残留応力など材料の状態が違うので、強さも変わりえます。JIS B 1759 は機械加工した歯車にも使えるとしていますが、材料の許容応力は運転試験で求めることになっています[30]。

材料ごとの値は 材料データベース、測定の考え方は 測定の誤差の基本、歯車は 歯車の勉強 と 歯車の計算、切削条件の計算は 計算機 にまとめてあります。

出典・参考資料

  1. Mitsubishi Chemical Group(三菱ケミカル アドバンスドマテリアルズ)「Guide to machining plastic parts(Machinist Toolkit)」(PDF)
  2. Victrex「VICTREX Finishing Brochure」(2022、PDF)
  3. Ensinger「CNC turning of plastics」
  4. Ensinger「FAQ」
  5. Quadrant Engineering Plastic Products の設計・加工資料(Polymershapes 掲載、PDF)
  6. Ensinger「TECAPEEK natural」
  7. Victrex「VICTREX PEEK 450G」データシート
  8. Ensinger「TECAPEEK GF30 natural」
  9. Ensinger「TECAPEEK CF30 black」
  10. Ensinger「TECAPEI natural」
  11. Ensinger「PPS plastic」
  12. Ensinger「TECATRON SX natural」
  13. Ensinger「TECAPAI CM XP403 green」
  14. Ensinger「Torlon PAI(polyamide-imide)」
  15. Ensinger「TECASINT 2011 natural」
  16. Ensinger「TECAFORM AH natural」
  17. Ensinger「TECAST T natural」
  18. MCAM「Ertalon 6PLA FG」製品データ(PDF)
  19. Ensinger「TECANAT natural」
  20. Ensinger「TECAFLON PTFE natural」
  21. ニチアス「ナフロン PTFE」カタログ(日本弗素樹脂工業会の表を掲載、PDF)
  22. Ensinger「TECAFINE PE 1000 natural」
  23. Ovako「Steel Navigator: C45」
  24. 日本製鉄「ステンレス形鋼」カタログ S006(PDF)
  25. Kaiser Aluminum「Alloy 6061 Rod and Bar」
  26. 阪野文秀・辰巳夏生・小林豊・角谷均「PEEK 材切削加工におけるダイヤモンド工具の損傷分析」2019 年度精密工学会春季大会 学術講演会講演論文集 pp.642-643(2019、要旨)
  27. 柘植英明・加賀忠士・萱岡誠「熱可塑性 CFRP の切削・研削加工技術の確立(第 1 報)」岐阜県工業技術研究所研究報告 No.2(2014、PDF)
  28. M. Miranda-Giraldo ほか「Burr formation and control for polymers micro-milling: A case study with vortex tube cooling」DYNA 84(203), pp.150-159(2017、PDF)
  29. JIS B 1702-3:2020「円筒歯車-精度等級-第 3 部:射出成形プラスチック歯車の歯面及び両歯面かみ合いに関する偏差の定義並びに許容値」(日本規格協会のプレビュー、PDF)
  30. JIS B 1759:2019「プラスチック円筒歯車の曲げ強さ評価方法」(日本規格協会のプレビュー、PDF)
  31. 小出隆夫・上田昭夫「【成形プラスチック歯車研究専門委員会】プラスチック歯車の用途拡大と強度評価法の確立を目指して」精密工学会誌 Vol.79 No.10, pp.904-907(2013)
  32. 森脇一郎「プラスチック歯車の強度設計規格の策定」精密工学会学術講演会講演論文集 2007S(2007、PDF)
  33. 岩井実・武士俣貞助「動力伝達用ポリアセタール歯車の強度の研究(第 1 報)曲げ強さおよび摩耗強さ」精密機械 Vol.46 No.10, pp.1285-1290(1980)
  34. 武士俣貞助・岩井実「動力伝達用ポリアセタール歯車の強度の研究(第 2 報)静電容量法による摩耗進行追跡」精密機械 Vol.47 No.8, pp.956-961(1981)
  35. R. Eberlein・S. Düzel「Fatigue Lifetime Analysis of POM Gears for Generalized Tooth Root Shapes」PPS-39 Proceedings(2024)
  36. E. Muratović ほか「An Analysis of the Tribological and Thermal Performance of PVDF Gears in Correlation with Wear Mechanisms and Failure Modes Under Different Load Conditions」Coatings 15(7), 800(2025)
  37. ENEOS Technical Review Vol.62 No.1「Effect of lubrication on friction and wear properties of PEEK with steel counterparts」(辰巳・設楽・坂本、受賞報告、2020、PDF)
  38. Victrex「PEEK Gears VICTREX HPG – High-Precision Gear Solutions」
  39. リケン NPR「リケン NPR とハーモニック・ドライブ・システムズ、次世代「樹脂製波動歯車装置」の共同開発に合意」(2026 年 9 月 18 日、PDF)
  40. リケン NPR「電動ユニット製品」
  41. igus「Everyday assistants of the future: igus accelerates humanoid robotics with Low Cost Automation」(2022 年 6 月)

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