検査器具

測定の誤差の基本:アッベの原理・20 ℃・測定力・不確かさと合否判定

公差の端ぎりぎりは「合格」と言い切れないんだ。測った値にも幅があるからね

マスコットのチップス
測定の誤差の基本:アッベの原理・20 ℃・測定力・不確かさと合否判定

同じ品物をノギスで測ると 0.02 mm 違う、朝と夕方でマイクロメータの読みが合わない、検査では合格だったのに客先で不合格になった——測った値は、測定器・品物・人・環境のどこかで必ずずれます。この記事では、現場で効く誤差の原因をアッベの原理・温度(20 ℃)・測定力・視差の 4 つに分け、どのくらいずれるのかを数値と計算機で示します。後半は、測定の不確かさと合否判定、ゲージブロックと校正のトレーサビリティ、三次元測定機の誤差まで。最後に、印刷して測定室に貼れるチェックリストを付けました。

アッベの原理:目盛と測る点を一直線に

アッベの原理は「測る物と目盛(基準の尺)を、測る方向の一直線上に並べると誤差がいちばん小さくなる」という考え方です[1][2][3]。マイクロメータは、目盛にあたるスピンドルのねじと、品物をはさむ線が一直線上にあり、この原理に従います。ノギスは、本尺の目盛と、ジョウではさむ点が離れていて、原理に従いません。マイクロメータのほうが精度が出る大きな理由がここにあります。

アッベの原理:ノギスは目盛と測る点が離れ、マイクロメータは一直線
ノギス:目盛と測る点が h だけ離れているジョウが θ 傾くと 誤差 f = h × θ(1 次の誤差)傾き 0.01 mm/50 mm で h 40 mm → 8 µm、h 10 mm → 2 µmマイクロメータ:目盛と測る線が一直線誤差 ≒ L × θ²/2(2 次の誤差)同じ傾きで L 25 mm → 約 0.5 nm(計算例)本尺の目盛の線測る点(ジョウの先端)h目盛(ねじ)の軸 = 測る線(アッベの原理に従う)品物はジョウの根元ではさむ(h を小さく)。先端でしか届かない形は、マイクロメータや専用の測定器に替える数値はミツトヨの例(h 40 mm)と、同じ式で計算した値。絵は Canva で生成したイメージ図

ノギス:傾きがそのまま誤差になる(1 次の誤差)

スライダにはわずかながたがあり、押す力でジョウが少し傾きます。目盛から測る点までの距離を h、ジョウの傾きを a/ℓ とすると、誤差は f = h × a/ℓ です。ミツトヨの例では、傾きが 50 mm あたり 0.01 mm、外側用ジョウの深さ 40 mm の先端で測ると 0.008 mm になります[1]。同じ傾きでも根元寄りの h = 10 mm で測れば 0.002 mm と 4 分の 1 です(計算例)。ハイトゲージも同じで、h = 150 mm で測ると h = 100 mm の 1.5 倍の誤差になる、とミツトヨは説明しています[1]。

マイクロメータ:傾きの 2 乗で効く(2 次の誤差)

目盛と測る線が一直線なら、少し傾いても誤差は L(1 − cos θ) ≒ L·θ²/2 です[1][4]。傾き 0.01 mm/50 mm(θ = 0.0002 rad)で L = 25 mm なら約 0.5 nm。ノギスの 8 µm とはけたが 4 つ違います(計算例)。ただし、内側マイクロメータを穴の中で傾けると √(ℓ² + X²) − ℓ だけ長く出て、ℓ = 200 mm で端が 10 mm ずれれば約 0.25 mm にもなります(計算例、式はミツトヨ[1])。内側マイクロメータを穴の軸方向には揺らして最小、直径方向には揺らして最大の位置で読むのはこのためです。

計算機:アッベの誤差

ノギス(1 次)f = h·a/ℓ—µm
マイクロメータ(2 次)L·θ²/2—µm
根元(h = 10 mm)なら—µm

θ = a/ℓ(rad) ノギス:f = h × θ マイクロメータ:L × θ² ÷ 2

Bryan の一般化:三次元測定機と工作機械へ三次元測定機や工作機械では、測りたい点(スタイラス球の中心・刃先)と目盛(スケール)を一直線上に置けません。Bryan(1979)はアッベの原理を「測る系は測りたい点と一直線上に置く。置けないときは、案内が角度方向に動かないようにするか、角度の動きを測って補正する」と一般化しました[4][5]。スタイラスを長く横に出すと誤差が増えるのは、この考え方で説明できます(7 章)。

現場で効くことノギスでは品物をジョウの根元ではさむ。先端でしか届かない形、溝の奥、薄いつばは、マイクロメータや専用の測定器に替える。内側マイクロメータは穴の軸方向に揺らして最小・直径方向に揺らして最大の位置で、シリンダゲージは指針の折り返し点で読む。

温度:寸法は 20 ℃の値

図面の寸法も規格の値も、20 ℃のときの値です。ISO 1(JIS B 0680)が、形状・寸法の仕様に使う標準基準温度を 20 ℃と決めています。2022 年版の改正は 20 ℃が国際温度目盛(ITS-90)の値であることをはっきりさせたもので、20 ℃という値そのものは変わっていません[6]。熱による誤差は、工作機械や精密測定でいちばん大きな誤差の原因の一つとされ、工作機械の誤差の 40〜70 % が熱によるという見方も紹介されています[7](機械側の熱変位は保全の熱変位のページ)。

材料が違うと、伸びが打ち消し合わない

長さの変化は ΔL = α × L × ΔT(α:線膨張係数)。測定器と品物の材料・温度が違うときの見かけの誤差は、e ≒ L ×{α品物 ×(T品物 − 20)− α測定器 ×(T測定器 − 20)}です[8][16]。鋼の品物を鋼の尺で測ると、同じ温度なら一緒に伸びて打ち消し合います。昔から鋼の部品を鋼の測定器で測って困らなかったのはこのためで、アルミの品物では打ち消し合いません[7]。

温度で読みが変わる:100 mm の品物を測ったときの、20 ℃の寸法とのずれ
-50+5+10+15+2015 ℃20 ℃25 ℃30 ℃35 ℃20 ℃=寸法の基準読みのずれ(µm)品物の温度+6.7 µm+0.9 µm+18 µmアルミ(A6061)とノギスが同じ温度鋼の品物だけ温度が違う(測定器は 20 ℃)鋼(S45C)とノギスが同じ温度

ノギスの本尺(ステンレス)の線膨張係数 10.2×10⁻⁶/K、A6061 23.6、S45C 12、マイクロメータの本体 11.5 として計算した値です(計算例)。鋼の品物と鋼の測定器が同じ温度ならずれは小さく、アルミや、品物だけが温かいときに大きくなります。

条件(100 mm)20 ℃の寸法とのずれ
アルミ(A6061、α 23.6)をノギス(本尺 10.2)と一緒に 25 ℃で約 +0.007 mm
鋼(S45C、α 12)をノギスと一緒に 25 ℃で約 +0.001 mm
削った直後 35 ℃の鋼を、20 ℃のマイクロメータで約 +0.018 mm
100 mm の鋼のゲージブロックが 1 ℃上がると+1.15 µm(0 級の許容差 ±0.30 µm の約 4 倍)

上の 3 行はノギスの本尺 10.2×10⁻⁶/K[1]と熱膨張の計算機の材料の値から計算した例、最後の行は ISO 3650 の鋼のゲージブロック(11.5×10⁻⁶/K)の値です[26][9]。φ100 の h7 の公差は 35 µm なので、35 ℃の品物をそのまま測ると公差の半分が温度だけで消えます。熱膨張の計算機(測った値を 20℃に)で、材料と温度を入れて見積もれます。

手の熱

マイクロメータのフレームを素手で持ち続けると伸びます。ミツトヨの実験グラフでは 300 mm 用で 30 分に約 14 µm、50 mm 用でも約 4 µm。200 mm の基準棒を手温 31 ℃の手で持つと、10 分で約 18 µm 伸びました(グラフから読んだ実験値で、保証値ではありません)[1]。手の熱をフレームに伝えにくくする断熱カバーが特許になっているほどです[15]。

手の熱でマイクロメータが伸びる:素手で握るか、防熱板を持つか
× 素手でフレームを握る300 mm 用で 30 分に約 14 µm 伸びる50 mm 用でも約 4 µm(ミツトヨの実験値)○ 防熱板を持つ熱が伝わりにくく、基点が動きにくい長く測るならスタンドに付ける実験のグラフから読んだ値で、保証値ではありません。絵は Canva で生成したイメージ図

なじませる時間

温度をそろえるには時間がかかります。NIST はゲージブロックを均熱板に置いたときの最小時間を、0〜10 mm で 30 分、25〜100 mm で 100 分、125〜500 mm で 8 時間としています[9]。加工後の品物では、温度差 15 ℃のプレートを恒温室の石定盤に直に置くと 80〜100 分、3 点で浮かせて置くと約 200 分で値が落ち着いた例があります[11]。熱を逃がす定盤に直に置くほうが早くなじみます。

温度をなじませる時間の目安
060 分2 時間4 時間6 時間8 時間ゲージブロック 0〜10 mm30 分ゲージブロック 10〜25 mm60 分ゲージブロック 25〜100 mm100 分ゲージブロック 125〜500 mm8 時間加工後の品物:定盤に直に置く80〜100 分加工後の品物:3 点で浮かせる約 200 分三次元測定機:室温を変えたあと5 時間以上ゲージブロック:NIST の最小時間(均熱板の上)/品物:温度差 15 ℃・恒温室(大分県)/測定機:20→25 ℃(大矢 1999)

それぞれ条件の違う資料の数値で、同じ尺度で比べるためのものではありません。おおよその桁をつかむ目安にしてください。温度差が大きいほど、品物や測定機が大きいほど長くかかります。

補正しても残る誤差

「20 ℃で測れないなら計算で補正すればいい」と考えがちですが、線膨張係数そのものにも不確かさがあります。ゲージブロック用の鋼で少なくとも 5 %、ほかの材料では 25 % に達することがあり[7]、材料の値は 0.5×10⁻⁶/K より正確には分かりにくいとされます[4]。20 ℃から離れて測るほど、補正しても残る誤差が大きくなります。NIST の例では、250 mm のブロックを 20.5 ℃で測ったとき係数の不確かさの影響は 0.07 µm でしたが、ブロックどうしに 0.1 ℃の温度差があるだけで 0.3 µm になりました[9]。補正より、20 ℃近くで、品物と測定器の温度をそろえて測るほうが効きます。

現場で効くこと夏場の午後にアルミを測るなら、品物と測定器を同じ定盤に 1 時間以上置いてから。マイクロメータは防熱板を持つかスタンドに付ける。削った直後の寸法は、温度を測ってメモし、熱膨張の計算機で 20 ℃に直してから判断する。

測定力とたわみ

マイクロメータには、ラチェットストップ・フリクションシンブル・ラチェットシンブルという定圧装置があり、決まった力を超えると空回りして測定力をそろえます。ラチェットストップは音と手応えで分かりますが片手では使いにくく、フリクションシンブルは音もショックもなく片手で使え、ラチェットシンブルは片手で使えて音で確かめられます[1]。熟練者と初心者の操作を比べた工学教育の研究では、目盛の読みより「スピンドルを当てるときの測定力を一定にすること」のほうが大事だとされました[14]。

ノギスにはこの定圧装置がありません。JIS の取扱い上の注意も、適正で均一な測定力で測るよう求めています。強く押すとスライダが傾き、1 章のアッベの誤差が増えます。内側用ジョウや長いジョウは基準面から遠いので、特に影響が大きくなります[1]。測定力が決まった値になると色や音で知らせるノギスの仕組みが特許になっているのも、そのためです[13]。

品物がつぶれる(ヘルツの式)

球や円柱を平らな測定面ではさむと、接触部が弾性変形して実際より小さく出ます。鋼の場合、球は δ₁ = 0.82 ∛(P²/D) µm、円柱は δ₂ = 0.094 (P/L) ∛(1/D) µm(P:測定力 N、D:直径 mm、L:円柱の長さ mm)[1]。φ10 mm の鋼球を 5 N ではさむと約 1.1 µm、10 N で約 1.8 µm 小さく出ます(計算例)。NIST のゲージブロックのハンドブックにも、比較測定で測定子の球が品物を押す変形を計算する例があります[9]。

測定力とつぶれ:平らな測定面で球をはさむと、δ だけ小さく出る
スピンドルの測定面アンビルの測定面Dつぶれ(上下で合わせて δ)δ₁ = 0.82 ∛(P²/D) µmP:測定力(N)、D:球の直径(mm)、鋼φ10 mm・5 N → 約 1.1 µmφ10 mm・10 N → 約 1.8 µmつぶれは誇張して描いています

ミツトヨの資料にあるヘルツの式(鋼、縦弾性係数 205 GPa)から計算した例です。円柱は δ₂ = 0.094 (P/L) ∛(1/D) µm(L:円柱の長さ mm)。マイクロメータのような 5〜10 N の測定力でも、球の測定では 1 µm 前後小さく出ます。

計算機:測定力によるつぶれ(鋼)

見かけの減り δ—µm

球 δ₁ = 0.82 ∛(P²/D) 円柱 δ₂ = 0.094 (P/L) ∛(1/D)(鋼、ミツトヨの式)

大形のマイクロメータのたわみ

測定範囲の大きいマイクロメータは、支え方や向きでフレームが自重でたわみ、基点が数 µm〜十数 µm 動きます。ミツトヨの表には、最大測定長 925 mm 用で支え方を変えると −22.5 µm という例があります[1]。基点は実際に測るときと同じ姿勢・支え方で合わせます。

現場で効くことマイクロメータはラチェットを 3〜5 回まわして読む(回数をそろえる)。ノギスは「軽く当てて、押し込まない」。玉やピンを測るときは 1 µm 前後小さく出ることを頭に入れておく。

視差と読みの限界

目盛線が同じ平面にないと、斜めから見たときに線が一致する位置がずれて見えます(視差)。ノギスのバーニヤの面と本尺の目盛の面の段差は、JIS で 0.3 mm 以下とされています(ミツトヨの解説)[1]。

人の目が 2 本の線のずれを見分けられるのは、明視距離 250 mm で約 0.02 mm、よい条件でも 0.01 mm とされます[2]。0.02 mm のバーニヤは、目の限界に近い読みです。デジタル式なら読み違いはなくなりますが、最小表示(0.01 mm)と精度(器差・最大許容誤差)は別ものです。最小表示 0.01 mm のノギスでも、指示誤差の許容は ±0.02〜0.03 mm 程度で、アッベの誤差や測定力の影響はそのまま残ります(各器具のページの「規格と精度」)。

現場で効くこと目盛は真正面から。読みにくい所はデジタル式やダイヤル式に。「0.01 mm まで表示される」ことと「0.01 mm まで正しい」ことを混同しない。

測定の不確かさと合否判定

どんなに丁寧に測っても、測った値には幅があります。その幅を数で表したものが測定の不確かさです。GUM(測定の不確かさの表し方の指針)の手順では、要因ごとの標準不確かさを、繰返し測ったばらつき(A タイプ)と、校正証明書・仕様・温度などの情報(B タイプ)から見積もり、二乗和の平方根で合成し、包含係数 k = 2 を掛けて拡張不確かさ U(約 95 %)にします[17][18][16]。長さの比較測定では、標準器の校正値・繰返し・標準器と品物の温度差・膨張係数の違い・密着などが主な要因です[16]。

現場の例

日本計量振興協会の報告書には、自動車部品の工程での例があります。マイクロメータで外径 φ19.02(+0.043/+0.022)を測る工程では、ゲージ R&R 1.0 µm と校正の不確かさを合成して U ≒ 2.4 µm。ノギスで全長 60(0/−1.5)を測る工程では U ≒ 0.12 mm になっていました[19]。公差 21 µm に対して 2.4 µm は小さいのですが、ノギスの 0.12 mm では、公差が 0.1 mm 前後の寸法は判定できません。

公差の端ぎりぎりは「どちらとも言えない」

JIS B 0641-1:2020(ISO 14253-1:2017 と同じ内容)は、測定値が公差の限界の近くにあると、不確かさのせいで適合とも不適合とも言えない、という考え方で合否の決め方を定めています。適合を示すのは供給者で、公差を不確かさの分だけ内側に狭めた受入領域に入っていることを示します。不適合を示すのは顧客で、不確かさの分だけ外側に広げた拒絶領域に出ていることを示します。示す側が不確かさを負う、という決まりです[20][21][23]。もめないように、判定のしかたは供給者と顧客で事前に決めておきます。

合否判定の 3 つの領域:公差の端の近くは「どちらとも言えない」
拒絶領域不確かさ受入領域(合格と言える)不確かさ拒絶領域下限 LSL上限 USLgg合格と言えるどちらとも言えないどちらとも言えない不合格と言える● 測定値、横線は ± U(拡張不確かさ)。g はガードバンド:旧版の既定は g = U、2017 年版の既定は適合確率 95 %

JIS B 0641-1:2020(ISO 14253-1:2017)の考え方を図にしたものです。適合を示すのは供給者(作る側)で、公差を g だけ内側に狭めた受入領域に入っていることを示します。不適合を示す側(買う側)は、g だけ外側に広げた拒絶領域に出ていることを示します。

内側に狭める幅をガードバンド g と呼びます。旧版の既定は g = U(k = 2)でしたが、2017 年版は既定を「適合確率 95 %」に改めました。公差と不確かさの比に関係なく、リスクを一定にするためです[21][22]。正規分布なら片側 95 % はおよそ 1.64u(u:標準不確かさ)の幅に当たります(計算した目安で、規格の数表ではありません)。旧来の g = U = 2u では、受入限界ちょうどの品物が実は不適合である確率は最大 2.3 % です[22]。

2 つのリスク

不適合品を合格にしてしまうのが誤合格(消費者リスク)、適合品を不合格にしてしまうのが誤不合格(生産者リスク)です。ガードバンドを広げると誤合格は減りますが、良品を捨てる誤不合格が増えます。不確かさを小さくすると両方が減り、受入領域が広がります[22][23]。米国系の「精度比 4:1・リスク 2 %」の決め方では、受入限界を公差の 0.77 倍にする例があります[19]。

計算機:ガードバンドと受入限界

ガードバンド g—mm
受入上限 USL − g—mm
受入下限 LSL + g—mm
公差のうち使える割合—%
公差 ÷ 2U(精度比)—倍

受入上限 = USL − g、受入下限 = LSL + g 使える割合 = (USL − LSL − 2g) ÷ (USL − LSL) 2017 年版の既定は適合確率 95 %。1.64u は正規分布を仮定した目安で、規格の数表ではありません

初期値は上の報告書の例(φ19.02 +0.043/+0.022、U 2.4 µm)です。測定値 19.061 mm は公差の内側ですが、受入上限 19.0606 mm を超えるので「合格と言い切れない」側に入ります。

測定器そのものの合否も不確かさ込みで

JIS B 0641-5:2021 は、ノギス・マイクロメータ・ダイヤルゲージなどの指示測定器が最大許容誤差(MPE)を満たすかを調べる検査での、検査値の不確かさの扱いを決めた規格です。B 0641-1 は測定器の判定にも不確かさを考えるよう求めていましたが、具体的な扱い方がなく、現場で解釈が分かれていたため作られました[24]。校正証明書を受け取ったら、合否だけでなく不確かさの欄も見てください。

現場で効くこと公差の端ぎりぎりの値は、測り直すか、より不確かさの小さい測定器で測る。公差に対してノギス・マイクロメータのどちらを使うかは、工程の不確かさ(ゲージ R&R を含む)で決める。判定のしかたは客先と事前に決めておく。

ゲージブロックの等級と校正のトレーサビリティ

ゲージブロック(JIS の名称はブロックゲージ)の等級は K・0・1・2 級です(JIS B 7506:2004、ISO 3650:1998 が基)。等級ごとに「任意点の寸法の許容差(te)」と「寸法許容差幅(tv:面内のばらつき)」が決まっています[25][26]。

等級何が違うか(呼び寸法 10 mm 以下の例)主な使い道
K 級te ±0.20 µm(1 級と同じ)、tv 0.05 µm(0 級より厳しい)。校正値を使う前提比較測定でほかのゲージブロックを校正する基準[26][10]
0 級te ±0.12 µm(いちばん小さい)、tv 0.10 µmマイクロメータの指示誤差 J の試験(0 級または 1 級)[1]
1 級te ±0.20 µm、tv 0.16 µm同上。三次元測定機・ノギス・マイクロメータの点検[10]
2 級te ±0.45 µm、tv 0.30 µm作業場での測定器の点検・段取り[10]

数値は JIS B 7506:2004 の表 1 から例の 1 行だけ(ミツトヨの解説)[25]。K 級の許容差が 0 級より大きいのは、呼び寸法に近いことより、形がよく寸法が正確に分かっていること(校正値で使うこと)が大事な等級だからです[26]。販売店の資料には「K 級=標準用・研究用、0 級=検査用ゲージや測定器の点検、1 級=検査用、2 級=工作用」という目安の表もありますが[40]、規格の本文では確かめられていません。

ゲージブロックどうしの密着(リンギング)の膜は、正しく合わせれば数 nm です。ただし手の熱で最初に変わり、その後も時間とともにわずかに変わります[9][10]。公設試の評価では、密着の不確かさは光波干渉で 8 nm、ノギス・マイクロメータの校正では 0.02〜0.03 µm と見積もられています[31]。

トレーサビリティの階段

長さの単位メートルは光の速さで決まっていて、国家標準はよう素安定化 He-Ne レーザ(波長 633 nm)です。最上位のゲージブロックは光波干渉計でレーザの波長と直接比べて測り(光波干渉測定)、ほかのゲージブロックはコンパレータで標準のブロックと比べて校正します(比較測定)。校正したゲージブロックでマイクロメータ・ノギス・三次元測定機を校正し、それで製品を測ります[27][2][30]。どの段にも不確かさが付き、下の段ほど大きくなります。

校正のトレーサビリティ:国家標準から製品までの階段
国家標準よう素安定化He-Ne レーザ長さの基準ゲージブロック光波干渉 30 nm比較測定60 nm〜0.15 µmマイクロメータの校正3.1 µmノギスの校正0.02 mm製品を測る(工程の例)マイクロメータ 2.4 µmノギス 0.12 mm

左から右へ、上の段の標準で下の段を校正します。数値は拡張不確かさ(k=2)の例で、下の段ほど大きくなります(ゲージブロックはミツトヨ・JEMIC、マイクロメータ・ノギスは群馬県立産業技術センターの JCSS 登録値、工程の例は日本計量振興協会の報告書)。アイコンは Canva で生成したイメージ図です。

段ごとの例(k = 2):ゲージブロックの光波干渉測定はミツトヨの最高測定能力で 100 mm 以下 30 nm、比較測定は 60 nm[28]。JEMIC の JCSS 校正は 100 mm 以下で 0.15 µm[29]。公設試(群馬県)の JCSS の登録値は、マイクロメータの校正が 3.1 µm、ノギスの校正が 0.02 mm(最小表示 0.01 mm)です[31]。温度が変わる現場での出張校正でも、マイクロメータの熱による影響は約 0.83 µm(標準不確かさ)にとどまりました[12]。

現場で効くことマイクロメータの点検には 0 級か 1 級、作業場の段取りには 2 級。K 級は校正証明書の値を使う。測定器の校正証明書では、トレーサビリティ(どこにつながっているか)と不確かさの欄を確かめる。

三次元測定機の誤差

直交 3 軸の三次元測定機には、軸ごとに 6 つ(位置決め・真直度 2 つ・ピッチ・ヨー・ロール)と軸どうしの直角度 3 つ、合わせて 21 の幾何誤差があるとされます[39][38]。メーカーはこれを測ってソフトで補正しています。使う側で管理しやすいのは温度で[11]、ほかに、スタイラス・点の取り方・品物の固定が主な要因です[37]。

  • 測定機そのものも伸びる:ガラススケールを本体から離して付けた機械は室温にほぼ比例して誤差が変わり、金属スケールを案内面に直接貼った機械はほとんど変わらなかった。室温を 20 ℃から 25 ℃に変えると、測定機の表面温度が落ち着くまで 5 時間以上かかった[32]
  • 起動直後と照明:20±1 ℃の部屋でも、起動直後や照明を点けたあとは座標が µm 単位でずれる。朝に機械と照明を同時に入れると、座標が 1 µm 以内に落ち着くのが夕方になった機種もあった(照明を消すと約 1 時間で安定)[33]
  • MPE と、その測定の不確かさは別もの:カタログの E0,MPE などは決められた検査での値。ある品物のある寸法を測ったときの不確かさは、品物によく似た校正済みのワークを同じ手順で繰り返し測り、校正値との差とばらつきから出す(ISO 15530-3)[36][37]
  • 中間点検:定期検査の間は、手元の標準器で同じ測り方を続けて変化を見る(JIS B 7440-2 の附属書 A)。低熱膨張セラミックスや炭素工具鋼のボール寸法ゲージで試した研究がある[35][34]

スタイラスの選び方・キャリブレーション・点の取り方は三次元測定機のページにまとめています。

現場で効くこと1 µm を争う測定は、前日から機械と照明を入れておく。品物は定盤に直に置いて温度をなじませる。大事な寸法は、校正済みのワークで不確かさを確かめておく。

現場のチェックリスト

印刷して測定室に貼っておけるように、10 項目にまとめました。

  1. ノギスはジョウの根元ではさむ:先端で測ると h の分だけ誤差が増える
  2. マイクロメータはラチェットで当てる:3〜5 回まわして、回数をそろえる
  3. 寸法は 20 ℃の値:品物と測定器の温度差を確かめる。材料が違えば計算で見積もる
  4. なじませる時間をとる:温度差 15 ℃の品物で 1〜3 時間。定盤に直に置く
  5. 素手で長く持たない:防熱板・手袋・スタンド。ゲージブロックはピンセット
  6. 目盛は真正面から読む:0.02 mm のバーニヤは目の限界に近い
  7. 公差と測定器を組み合わせる:公差の幅が 0.1 mm 前後より狭ければノギスで判定しない
  8. 端ぎりぎりは測り直す:別の測定器でも測る。判定のしかたは客先と決めておく
  9. 校正証明書は不確かさまで見る:合否だけでなく、どこにつながっているか
  10. 三次元測定機は前日から:機械と照明を入れておき、朝いちばんは標準器で確かめる

よくある質問

デジタルノギスで 0.01 mm まで表示されれば、0.01 mm まで正しいのですか?
いいえ。最小表示と精度は別ものです。指示誤差の許容は機種によって ±0.02〜0.03 mm ほどあり、さらにアッベの誤差・測定力・温度の影響が加わります。各器具のページの「規格と精度」を見てください。
20 ℃の部屋がないと、正しく測れないのですか?
鋼の品物を鋼(またはステンレス)の測定器で測り、両方の温度がそろっていれば、20 ℃から多少外れても誤差は小さく済みます。気をつけるのは、アルミなど膨張の大きい材料と、加工直後で品物だけ温かいときです。熱膨張の計算機で見積もってください。
不確かさは、どうやって見積もればよいですか?
同じ品物を何回か測ったばらつき(A タイプ)と、測定器の校正の不確かさ・温度などの情報(B タイプ)を合成します。NITE の入門ガイドや、ゲージ R&R の結果を使うのが手早い入口です[17][19]。
測定器の読み方そのものを知りたいです。
ノギス・マイクロメータ・ゲージブロック・三次元測定機のページに、読み方の練習・使い方・よくあるミスをまとめています。寸法がばらつくときは、加工トラブル事典の「寸法がばらつく・寸法が合わない」も見てください。

出典・参考資料

  1. ミツトヨ「Quick Guide to Precision Measuring Instruments」(E11003)
  2. 東京都立産業技術研究センター「長さ測定の精度と信頼性」〔公的機関の報告〕
  3. キーエンス「アッベの原理」
  4. P. Schellekens ほか「Design for Precision: Current Status and Trends」Annals of the CIRP 47(2), 1998〔論文〕
  5. J.B. Bryan「The Abbé principle revisited: An updated interpretation」Precision Engineering 1(3), 1979〔論文・書誌〕
  6. ISO 1:2022 Standard reference temperature(JIS B 0680:2023)〔規格〕
  7. J.B. Bryan「International Status of Thermal Error Research」UCRL-50285, 1967〔公的機関の報告〕
  8. T. Doiron・J. Stoup「Uncertainty and Dimensional Calibrations」J. Res. NIST 102(6), 1997〔論文〕
  9. NIST「The Gauge Block Handbook」(Monograph 180)〔公的機関の報告〕
  10. NPL「Good Practice Guide No. 149」ゲージブロックの手入れと使い方〔公的機関の報告〕
  11. 大分県工業試験場「三次元測定機における温度環境による測定誤差の検討」(1986)〔公的機関の報告〕
  12. 群馬県立産業技術センター「ノギス、マイクロメータの出張校正手段の確立」(2023)〔公的機関の報告〕
  13. 特開 2015-025777(特許第 6224372 号)「測定器」〔特許〕
  14. 武雄 靖・夏 恒「外側マイクロメーターの測定力一定化の教育実践に関する研究」工学教育 61(6), 2013〔論文〕
  15. US 8,245,413 B2「Heat insulating cover and micrometer」〔特許〕
  16. 製品評価技術基盤機構(NITE)「JCSS 不確かさ見積もりに関するガイド(ブロックゲージ)」〔公的機関の報告〕
  17. NITE「不確かさの入門ガイド」〔公的機関の報告〕
  18. 日本建築総合試験所「測定の不確かさの意味」〔公的機関の報告〕
  19. 日本計量振興協会「平成 23 年度 測定の不確かさの活用のための調査研究報告書」(2012)〔公的機関の報告〕
  20. JIS B 0641-1:2020 仕様に対する合否判定基準(プレビュー)〔規格〕
  21. ISO 14253-1:2017(iTeh のプレビュー)〔規格〕
  22. JCGM 106:2012「The role of measurement uncertainty in conformity assessment」〔規格〕
  23. H. Nielsen「ISO 14253-1 Decision Rules」
  24. JIS B 0641-5:2021 指示測定器の適合性検査における不確かさ(プレビュー)〔規格〕
  25. ミツトヨ「「ブロックゲージ」に関する JIS B 7506:2004 年版について」
  26. ISO 3650:1978 Gauge blocks(iTeh のプレビュー)〔規格〕
  27. 尾藤洋一「ブロックゲージの校正法とその不確かさ」産総研計量標準報告 4(1), 2005〔公的機関の報告〕
  28. ミツトヨ「校正の不確かさ向上について」
  29. 日本電気計器検定所(JEMIC)「ブロックゲージの JCSS 校正」〔公的機関の報告〕
  30. 横河電機「ブロックゲージ(JCSS 校正)」
  31. 群馬県立産業技術センター「ISO/IEC 17025 及び JCSS の登録更新に係る不確かさ評価」(2016)〔公的機関の報告〕
  32. 大矢 誠「三次元座標測定機の精度に及ぼす温度環境の影響」日本機械学会論文集 C 編 65(631), 1999〔論文〕
  33. 群馬県立産業技術センター「環境温度が三次元測定精度に及ぼす影響に関する研究」(2019)〔公的機関の報告〕
  34. 和合 健ほか「座標測定機の中間点検手法の考察」精密工学会誌 79(3), 2013〔論文〕
  35. JIS B 7440-2:2013(プレビュー)〔規格〕
  36. ISO 15530-3:2011(iTeh のプレビュー)〔規格〕
  37. NPL「Good Practice Guide No. 130」三次元測定機の測定の不確かさ〔公的機関の報告〕
  38. H. Schwenke ほか「Geometric error measurement and compensation of machines — An update」CIRP Annals 57(2), 2008〔論文・要旨〕
  39. 「Efficient Method for Identifying Key Errors Based on 21-Geometric-Error Measurement…」Applied Sciences 14(7), 2024〔論文〕
  40. ミスミ「ブロックゲージ」商品ページ(販売店の用途の目安)

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