内歯車を「みがく」:創成研削のしくみでポリッシュする量産加工法(ニデックマシンツール×アーヘン工科大)を図で解説
形は研削で、仕上げはみがきで。山だけ取って、油の谷は残すんだ!


外歯車なら、研削のあとに歯面を鏡のようにみがく「ポリッシュ研削」はもう量産で使われています。ところが遊星歯車の外側にある内歯車(リングギヤ)は、工具を歯車の内側に入れなければならず、みがく方法がありませんでした。ニデックマシンツールとドイツのアーヘン工科大学は、内歯車の創成研削盤の動きをそのまま使い、砥石だけをみがき用に替える方法を試し、Ra 0.05µmの鏡のような歯面を、研削焼けなしで作れることを確かめました。2024 年に「世界初の量産用内歯車ポリッシュ加工法」として発表された技術です。この記事では、内歯車の仕上げがむずかしいわけ、なぜ「みがく」と歯車が長持ちして静かになるのか、論文で分かった条件の決め方を、図で順番に見ていきます(2026 年 10 月時点)。
- 1歯切り
ホブ・シェーパ・スカイビングで歯を作る - 2熱処理
焼入れで硬くなるが、形がゆがむ - 3創成研削
ゆがみを直す。精度 ISO 3〜5 級、粗さ Ra 0.35µm 以下 - 4ポリッシュ(今回)
砥石を替えて山だけを取る。Ra 0.1〜0.05µm
内歯車ができるまでの流れと、今回足された工程。研削とポリッシュの値は論文による[1]。
内歯車の仕上げがむずかしいわけ
遊星歯車機構は、小さく軽いまま大きな減速比を取れるので、ハイブリッド車や電気自動車の駆動ユニット、変速機、ロボットの関節に広く使われています。その一番外側にある内歯車は、わずかなゆがみでも騒音・振動の原因になります。エンジン音のない電気自動車では、その音がとくに聞こえやすくなりました[1][2]。
内歯車は焼入れのあとに形がゆがむので、外歯車と同じように研削で直したいところです。しかし工具は歯車の内側の狭い空間に入れなければならず、外歯車で使う大きなねじ状砥石は入りません。三菱重工の 2009 年の資料によれば、それまでは焼入れ前の歯切りの精度を上げることで対応し、電着砥石のホーニングも試されていましたが、コストが高く生産性が低いなど決め手に欠けていました[6][5]。
そこで三菱重工(現在はニデックマシンツールが引き継ぎ)は、松江工業高等専門学校の郡原宏教授と加工理論を検討し、2009 年に世界初の量産用の内歯車研削盤 ZI20Aを発売しました。中央が太い樽形のねじ状砥石を使うのが特徴で、ホーニングに比べてすべり速度を 4 倍以上に上げ、1 個あたりの工具費を約 1/6 にしたとしています[5][6]。2024 年には外径 250mm まで削れる ZI25A も加わりました[4]。
研削だけでも、歯形・歯すじの誤差は ISO の IT3 以内に収まり、熱処理でずれたピッチも直せます。ただし歯面の粗さはRa 0.35µm 程度までで、これより滑らかにするには別の工夫が要りました[1]。砥石の比較では、コランダム砥石は cBN 砥石と同じくらいの寿命と品質で、生産性が 1.5 倍という結果も出ています[7]。
なぜ歯面を「みがく」のか
研削した歯面を拡大すると、細かな山と谷が並んでいます。歯車がかみ合うとき、歯面どうしの間には薄い油膜ができますが、とがった山はその油膜を突き破って相手に当たり、摩擦や小さな傷の原因になります。
外歯車では、スイスの研削盤メーカー Reishauer が 2012 年にポリッシュ研削を開発しました。1 本のねじ状砥石を、研削用のかたい部分(粒度 80、平均の粒の大きさ 185µm)と、みがき用の弾力のある樹脂の部分(粒度 800、平均 7µm)に分け、同じ機械・同じクランプのまま研削からポリッシュへ移ります。連続創成研削の Ra 0.3µm 前後を、目安として Ra 0.1µm まで下げます。歯面をみがく方法にはバレル研磨(振動させた研磨材の中で磨く)もありますが、研削とは別の機械と運搬が要ります[8]。
滑らかにすると何が良くなるか
- 長持ちする:NASA の試験では、航空用の研削歯車をバレル研磨で超仕上げ(歯面を約 2.5µm 除去)したところ、面の疲労寿命が約 4 倍になりました。材料は AISI 9310、歯数 28、ヘルツ応力 1.71GPa の条件です[9]。
- 小さなき裂が育ちにくい:論文は、表面の微小き裂が育つ危険を減らすことを、トラック・バス・農業機械でみがく主な理由に挙げています[1]。
- 摩擦が減り、効率が上がる:電気自動車のように高回転で回る駆動系では、効率と騒音(NVH)の改善がとくに大事になります[1][8]。超仕上げの業者は、GM とオハイオ州立大学の 2007 年の研究で、超仕上げの平歯車の効率が研削歯車より約 17% 改善したと紹介しています(業者による紹介で、効率そのものではなく損失の差と読むのが自然です)[10]。
ニデックとアーヘン工科大の研究
ニデックマシンツールの藤村氏と、アーヘン工科大学 工作機械研究所(WZL)の Löhrer 氏は、研削盤 ZI20A の動きはそのまま、砥石だけをレジン(樹脂)結合のみがき用砥石に替えて、内歯車をポリッシュする条件を調べました[1]。
| 歯車 | 自動車用を想定したリングギヤ:モジュール 1.25、歯数 85、ねじれ角 20°、圧力角 20°、転位係数 0.3、歯幅 30mm、SCr415(16MnCr5 相当)、60HRC |
|---|---|
| 砥石 | レジン結合のコランダム 800 番、φ76×幅 20mm(市販品が少なく、予備試験で粒度と結合剤を比べて選んだ) |
| 変えた条件 | 砥石の回転数 1,500〜11,945 回転/分(軸交差角 30° で、すべり速度 3〜24m/s)、半径方向の切込み 0.02〜0.25mm、軸方向の送り 0.02〜0.04mm/工作物 1 回転。試験点は 9 つ |
| やり方 | 研削済みの歯車を使い、試験ごとに砥石をドレスして 1 パスでポリッシュ |
| 合格の基準 | 歯形・歯すじの全偏差が IT5 以内(歯車測定機で測定)、粗さ Ra 0.1µm・Rz 1.0µm 以下(触針式、歯形方向、歯面の中央)、研削焼けなし(ナイタルエッチング) |
試験の条件[1]。
結果 1:切込みが粗さを決める
切込みが 0.1mm 以上で目標の Ra 0.1µm を下回り、0.15mm で Ra 0.05µmに届きました。0.1mm で仕上げた歯車の測定記録はポリッシュ前とほとんど変わらず、ポリッシュで粗さ曲線の山だけが取れたことも確かめられています[1]。
結果 2:速く回しても粗さは悪くならない
粗さと回転数の関係はまっすぐではなく、ゆっくり回すといちばん細かくなり、回転を上げると一度粗くなって、8,000 回転/分を超えると再び細かくなりました。生産性を決めるのは回転数なので、最高の 11,945 回転/分で回すと、ゆっくりの時と同じくらいの粗さで加工時間は約 1/8になります[1]。
結果 3:左右の歯面で効き方がちがう
軸方向の送りを 0.02 から 0.04mm に上げると、左の歯面は Ra 0.12→0.11µm と 8% 下がり、右の歯面は Ra 0.06→0.08µm と 33% 上がりました。左右の歯面で送りを変えて別々に仕上げるのも一つの手だとしています。どの条件でも研削焼けは出ませんでした[1]。
論文がすすめる条件半径方向の切込み 0.1〜0.15mm、砥石の回転数 11,945 回転/分、軸方向の送り 0.02〜0.04mm/回転。この組み合わせで、Ra 0.1µm より滑らかな歯面をいちばん短い時間で得られる見込みです。ただしこれは最初の試験で、同じ条件での確認と繰り返しの試験、ほかの砥石での試験、Rpk・Rvk による詳しい評価はこれからとしています[1]。
粗さのものさしと、内歯車の仕上げ方のくらべ
| やり方 | しくみ | 粗さ・精度の例 | よいところ | 気をつけること |
|---|---|---|---|---|
| 創成研削(樽形のねじ状砥石) | 砥石を 20〜35° 傾けて歯車と同期して回す | IT3 以内、Ra 0.35µm 以下 | 熱処理のゆがみ(ピッチのずれ)を直せる、速い | 研削焼けの管理 |
| 内歯車ホーニング | 歯車形の砥石とかみ合わせ、0.3〜5m/s とゆっくり削る | 試験例で Ra 0.23µm | 熱がほとんど出ず、表面に大きな圧縮の残留応力(-1,000〜-1,600MPa)が残る | 削れる量が少ない |
| SkiveFinishing(Liebherr) | スカイビングの動きで、電着 cBN 工具で仕上げる | ISO 5 級、Ra 0.4µm 未満(メーカー発表) | ドレス不要、歯面修整も直接つけられる | 数値はメーカーの初期結果 |
| ポリッシュ(今回) | 創成研削盤の動きのまま、レジンの砥石でみがく | IT5 以内を保ち Ra 0.05µm | 研削盤と同じしくみ、研削焼けなし、29 秒 | まだ最初の試験。砥石は 1 種類だけ |
| バレル研磨・超仕上げ | 振動させた研磨材(+化学液)で表面をならす | Ra 0.1µm 未満(業者の資料) | 方向性のない滑らかな面、寿命 約 4 倍の試験例 | 別の機械と搬送、まとめて処理 |
出典:論文[1]、ZI25A の資料[4]、ホーニングの論文[11]、SkiveFinishing の要旨[12]、REM[10]、NASA[9]。
現場で何に効くか
- 内歯車の研削盤を持っていれば、砥石を替えるだけで同じしくみのままポリッシュできる見込み(論文は研削済みの部品を 1 パスでみがいた)
- 条件の目安は切込み 0.1〜0.15mm。深すぎると精度が崩れる
- 粗さは左右の歯面で別々に測る。送りの効き方が左右でちがう
- Ra だけでなく、山の高さ(Rpk)と谷の深さ(Rvk)も見る
- みがいても、研削焼けの検査(ナイタルエッチング)は続ける
- 遊星歯車のリングギヤにも、外歯車と同じ Ra 0.1µm 級の指示が出せるようになりつつある
- 狙いは長持ち(微小き裂・面の疲労)と、効率・騒音の改善
- 図面に粗さだけを書くと、山を取った面か、ただ細かい面かが区別できない。必要なら Rpk・Rvk も取り決める
- まだ発表の段階の技術なので、量産での実績や費用は加工先に確かめる
よくある質問
- 「ポリッシュ」と「研削」はどうちがうのですか?
- どちらも砥石で削りますが、研削は粗い粒と硬い結合剤で形を作る工程、ポリッシュは細かい粒(今回は 800 番)と弾力のある樹脂の結合剤で、表面の山だけを取る工程です。ポリッシュでは形は変えません[8][1]。
- どれくらい削り取るのですか?
- 機械に与える半径方向の切込みは 0.1〜0.15mm がおすすめとされています。切込み 0.1mm で仕上げた歯車では、玉間寸法の増加は 0.004mm で、研削のばらつきの範囲に収まりました[1]。
- 鏡のようにピカピカにすればするほど良いのですか?
- そうとは限りません。外歯車のポリッシュ研削では、油をためる谷を残すことが大事だとされています。同じ Ra でも、山が高く谷が浅い面と、山が低く谷が深い面では性能が大きくちがいます[8]。
- ホーニングと比べてどちらが良いですか?
- ホーニングは熱がほとんど出ず、表面に大きな圧縮の残留応力が残るのが強みです[11]。創成研削とポリッシュは、熱処理のゆがみを直す力と速さ、粗さの細かさが強みです。歯車の大きさ・ゆがみの量・求める粗さで選びます。
- どんな内歯車に使えますか?
- 論文の試験はモジュール 1.25・歯数 85 の自動車用のリングギヤです。研削盤 ZI25A はモジュール 1〜3、外径 250mm までに対応しています[1][4]。
歯車の基本と精度の等級は 歯車の勉強、研削やホーニングなどの加工法は 歯車の加工法、歯面の形を歯ごとに変えて音を消す方法は MicroForm の記事にまとめています。
出典・参考資料
- N. Fujimura(ニデックマシンツール)・P. de Oliveira Löhrer(RWTH Aachen 大学 WZL)「Application-oriented research on internal generating polishing」(ニデックの 2024-02-09 の発表資料に添付、PDF)
- ニデック「ニデックマシンツールの世界初となる量産用内歯車ポリッシュ(研磨)加工法の開発について」(2024-02-09)
- MONOist「遊星歯車機構用の内歯車を高精度に仕上げる加工法を開発」(2024-03-08)
- ニデックマシンツール「量産用内歯車研削盤『ZI25A』をラインアップに追加、販売開始」(2024-10-16)
- 三菱重工「内歯車を高速・高精度に低コストで仕上げ加工、ギヤノイズ低減へ 内歯車研削盤『ZI20A』を開発」(2009 年 1 月)
- 栁瀬吉言ほか「世界初量産用内歯車研削盤 ZI20A の開発」三菱重工技報 Vol.46 No.3(2009)
- 「Practical analysis of productivity of grinding tools in the process of internal generating gear grinding」Procedia CIRP Vol.118(2023)pp.608–613
- W. Graf(Reishauer)「Polish Grinding of Gears」Gear Technology(2023 年 11 月、PDF)
- NASA Technical Reports Server「Gear Durability Shown To Be Improved by Superfinishing」(Research and Technology 1999)
- REM Surface Engineering「Surface finish improvement for gear and bearing system gains」
- 「Aspects of the Internal Gear Honing Process」(ResearchGate)
- Motion + Power Manufacturers Alliance「SkiveFinishing® – Introduction of a new hard finishing process for internal gears」(ウェビナーの要旨、2026)


