歯車

ギヤスカイビングの 2 つの弱点を解く新技術:不二越の「エアスカイビング」と Liebherr の「SkiveFinishing」を図で解説

冷やしすぎると刃が割れる!?熱と切りくずの付き合い方がカギだよ

マスコットのチップス
ギヤスカイビングの 2 つの弱点を解く新技術:不二越の「エアスカイビング」と Liebherr の「SkiveFinishing」を図で解説

ギヤスカイビングは、ギヤシェーパの約 3 倍の速さで内歯車を削れる工法として、自動車・建機・減速機の工場に広がってきました。一方で現場では「工具がすぐ傷む」「焼入れのあとの内歯車には使いにくい」という 2 つの弱点もよく知られています。2025 年、この 2 つをそれぞれ狙った新しい技術が日本とドイツから出てきました。切削油をやめてエアーで切りくずを飛ばす不二越の「エアスカイビングシステム」と、切れ刃の代わりに電着 cBN の砥粒で焼入れ後の歯面を仕上げる Liebherr の「SkiveFinishing」です。この記事では、なぜ弱点が生まれるのかを研究で確かめたうえで、2 つの技術のしくみと数字を図で見ていきます(2026 年 10 月時点)。

ギヤスカイビングギヤシェーパより速い内歯車・段付きに強い弱点 1:工具がすぐ傷む・刃先の向きが大きく変わり負担が大きい・切削油で冷やすと熱衝撃で欠ける・内歯車は切りくずが逃げにくいドライ化+エアーで切りくずを飛ばす → 不二越「エアスカイビング」弱点 2:焼入れ後の仕上げ・焼入れで内歯車がゆがむ・硬い歯を切れ刃で削ると工具が減る・精度・粗さに限界がある切れ刃の代わりに電着 cBN の砥粒 → Liebherr「SkiveFinishing」
ギヤスカイビングの 2 つの弱点と、それぞれを狙った新しい技術[2][11]。

ギヤスカイビングのおさらい

ギヤスカイビングは、ピニオン形のカッタと工作物の軸を斜めに交差させ、2 つを決まった比で同期して回しながら軸方向に送って歯を削る工法です。軸を交差させることで刃と歯面の間にすべり速度が生まれ、それが切削速度になります[6]。ホブと違って内歯車も削れ、ギヤシェーパのように往復しないので速く、不二越はギヤシェーパからの置き換えで加工時間が約 1/3になるとしています[2][3]。旋削や穴あけと 1 台にまとめた複合機も増えました[3]。

ただし刃にとっては厳しい加工です。刃が歯溝に入ってから出るまでに刃の向き(作業すくい角)が大きく変わり、シミュレーションの例では −1.2° から −47° まで負の側に振れます。切込みの初めは逃げ角も小さく、摩耗や欠けにつながりやすい形です[6]。カッタの形で切削力は変わり、佐賀大学の測定では円すい型のカッタのほうが円筒型より切削力が小さくなりました[7]。JTEKT は、加工中の切削状態を計算して工具や条件を選ぶプログラムを作り、実際の工具の摩耗の出方と合うことを確かめています[8]。

弱点 1:工具がすぐ傷む——熱衝撃と切りくず

スカイビングは刃が歯溝に入っては出る断続切削です。削っている間に刃先は熱くなり、空転している間に冷えます。そこに切削油をかけると、刃先は毎回急に冷やされ、大きな温度差で表面が引っぱられてくしの歯のようなき裂ができ、やがて欠けます。不二越も、クーラントを使った断続切削の熱衝撃で刃具の寿命が短く、ランニングコストが課題だったと説明しています[2]。

刃先の温度(模式図):削る → 空転 → 削る … のくり返しウェット空転のたびに切削油で急に冷えるドライ高い温度のままゆれが小さい↑ 削る間は温度が上がる急な温度差 → 表面が引っぱられ、くしの歯状のき裂 → 欠け
刃先の温度のゆれ(模式図)。ウェットでは空転のたびに急に冷やされ、ドライでは高い温度のままゆれが小さい。

研究で見る「ドライのほうが長持ち」

ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)の研究グループは、焼入れ焼戻しした 31CrMoV9 の内歯車を、AlCrN をコーティングした超硬の単刃工具でスカイビングし、ドライと油をかけた場合を比べました(逃げ面の摩耗幅 60µm を寿命とした)[5]。

  • 引張強さ 1,200MPa の材料:ドライでは摩耗が均一にゆっくり進み、欠けやき裂が出ず、寿命は油をかけた場合の 1.5〜3 倍[5]
  • 1,400MPa の硬い材料:欠けやすくい面のくぼみから突然壊れるが、ドライでは壊れるまでが遅れ、寿命が 50〜150% 長くなった[5]
  • 切削速度を 100 から 140m/min に上げても、寿命は大きく落ちなかった[5]
  • ただし摩耗が進むと、ドライのほうが仕上げ面が粗くなる[5]

では全部ドライにすればよいかというと、内歯車ではもう一つの問題が出ます。切削油が切りくずを洗い流さないので、歯車の内側に切りくずが張り付き、それを刃が噛み込んでかえって早く傷むのです[1][4]。

不二越の「エアスカイビングシステム」

不二越が 2025 年 8 月に発売したエアスカイビングシステムは、ドライの利点を生かしながら切りくずの問題をエアーで解く仕組みです。同社のスカイビング複合加工機 GMS シリーズに載せられ、外歯車・内歯車・段付き・止まり穴の形にも使えるとしています[1]。

外部ノズルキャップドライにすると起きること切削油が切りくずを流さないので、内歯車の内側に切りくずが張り付き、工具に噛み込んで刃が傷むエアーユニットの 2 つの役目外部ノズルワークに張り付いた切りくずを吹き飛ばすエアーキャップ(カッタの先端)円周方向にエアーを出し、舞った切りくずの挟み込みを防ぐカッタ:耐摩耗性の高い材料 FAXG1 +耐熱性の高いコーティング Hyper DS1(AlCrXN 系の積層膜)模式図。不二越の発表資料の説明をもとに描いた
エアスカイビングのしくみ(模式図)。外部ノズルが張り付いた切りくずを飛ばし、カッタ先端のエアーキャップが円周方向にエアーを出して、舞った切りくずの挟み込みを防ぐ[1][2][4]。
  • エアーユニット:外部ノズルとエアーキャップの 2 つでエアーの流れを作る[1]
  • ドライスカイビングカッタ:耐摩耗性の高い工具材料(FAXG1)に、耐熱性を高めた新しいコーティング Hyper DS1(AlCrXN 系の積層膜、表面を滑らかにする処理つき)[2][4]
カッタ寿命(再研削 1 回あたりの加工個数)ギヤシェーパ(油性)120 個スカイビング(水溶性)50 個エアスカイビング(ドライ)330 個合金鋼 SCM420 の加工。ドライは水溶性の 5 倍以上、ギヤシェーパの 2.5 倍以上設備全体の CO2(t/年)ポンプ 2.3オイルコントローラ 1.5切削油の廃棄 1.3切削の動力 0.96.0水溶性エアー 2.6切削の動力 0.93.5ドライ−41%エアーの電力が増えても、ポンプ・油の管理と廃棄がなくなる分が大きい
不二越の資料の値(合金鋼 SCM420 の加工)。カッタ寿命は再研削 1 回あたりの加工個数、CO2 はクーラントのポンプ・油の管理と廃棄、エアーの電力、切削の動力を含む設備全体の年間の量[2]。

カッタ寿命は、水溶性の切削油を使ったスカイビングの 50 個からドライで 330 個へと 5 倍以上になり、油性のギヤシェーパ(120 個)と比べても 2.5 倍以上です。エアーを使う分の電力を足しても、ポンプやオイルコントローラ、油の廃棄がなくなるので、設備全体の CO2 は年 6.0t から 3.5t へ41% 減るとしています[2]。販売の目標は年 15 台です[1]。数字はいずれもメーカーの試験による値です。

弱点 2:焼入れのあとの内歯車

内歯車は焼入れでゆがむため、精度を上げるには焼入れのあとに仕上げる必要があります。60HRC 前後の硬い歯を切れ刃で削るのがハードスカイビングで、ゆがみを短い時間で取れる一方、刃の摩耗が早く、精度と面の細かさに限界があるとされてきました[11][9]。

ハードスカイビングの最近の例

  • 不良率が大きく下がった試作:Liebherr の顧客誌によれば、ある内歯車の試作で、焼入れ後にハードスカイビングすると、それまで最大 30% あった不良率がほぼ 0 になった(Eaton との試作)[10]
  • PCBN 工具の量産例:2026 年の Gear Solutions の記事では、電気自動車用の内歯車(モジュール 1〜2、径 120〜250mm)で 1 個 81 秒、Ra 0.1µm 未満・Rz 0.6µm 未満、焼入れで 80〜160µm あった振れを 20µm 未満にして ISO 5 級。プラグインハイブリッド用では平均の取り代 55µm で 1 個 36 秒、再研磨 1 回で平均 2,700 個、工具費は 1 個あたり 1.5 ドルとしています[9]

Liebherr の「SkiveFinishing」

Liebherr は、焼入れ後の内歯車の仕上げを「速いが精度に限界のあるハードスカイビング」と「最高の精度だが時間とコストのかかる成形研削」の二択だったと整理し、その間を埋める工法として SkiveFinishing を作りました。スカイビングと同じ動きのまま、工具をドレスのいらない電着 cBN 工具に替えたものです。2025 年 9 月のドイツ・ハノーファーの展示会 EMO で初めて公開されました[11]。

速さ・経済性 →精度・面の細かさ →成形研削1 歯ずつ。最高の精度だが時間とコストハードスカイビング切れ刃で速い。精度と工具摩耗に限界SkiveFinishing電着 cBN でスカイビング。その間を埋める概念図。位置は各社・研究の説明による大まかなもの
焼入れ後の内歯車の仕上げ方の位置づけ(概念図)。Liebherr の説明による[11][13]。このほか、創成研削盤で研削とポリッシュを行う方法もある(内歯車のポリッシュ加工)。
  • 工具:ボール状の形で、使える位置(シフト位置)がいくつもある。接触線に沿って軸方向に送り、ある位置が摩耗したら次の位置へずらす。cBN の粒の大きさで粗さを調整できる[11]
  • 歯面修整:歯先の逃げ・クラウニング・歯すじの修整を、内歯車にも直接つけられる(これまでは手間のかかる成形研削か特別なドレスが必要だった)[11]
  • 強さ:歯面に高い残留応力が残り、歯面の強さが上がるとしている[11]
  • 工具の再生:摩耗しきった工具は、ドイツのエトリンゲン工場で再生する[11]
  • 精度:同社のスカイビング盤 LK 280・LK 500 での最初の試験で、ISO 1328 の 5 級、Ra 0.4µm 未満[13]
電着 cBN の工具を、摩耗したら次の位置へずらして使う(模式図)使い終わり使い終わりいま使用中次に使う次に使うドレス不要全部摩耗したら工場で再電着
SkiveFinishing の工具の使い方(模式図)。ドレスはせず、摩耗した位置から次の位置へずらして使う[11]。

2026 年の顧客誌では、実現できることの確認を終え、大手の顧客と量産の条件での最適化を進めている段階だとしています[12]。航空機、電気自動車の静かな変速機、トラックやトラクターの遊星歯車が主な用途に挙げられています[11]。

2 つの技術をくらべる

エアスカイビングシステム(不二越)SkiveFinishing(Liebherr)
解く弱点工具寿命(熱衝撃・切りくずの噛み込み)焼入れ後の精度と面の細かさ
削る歯車焼入れ前(SCM420 の例)焼入れ後の内歯車
工具耐摩耗性の高い材料(FAXG1)のカッタ+ Hyper DS1 コーティング電着 cBN 工具(ボール状、シフト位置つき)
切削油使わない(ドライ+エアー)(資料に記載なし)
数字カッタ寿命 5 倍以上、加工時間はギヤシェーパの約 1/3、CO2 41% 減ISO 5 級、Ra 0.4µm 未満(初期の試験)
工具の手入れ再研削して使うドレス不要、摩耗したら工場で再生
状況2025 年 8 月発売、GMS シリーズに搭載2025 年 9 月に初公開、量産条件での最適化中

出典:不二越の資料[1][2]、Liebherr の資料[11][12][13]。数字はいずれもメーカーの発表による。

現場で何に効くか

焼入れ前のスカイビング(エアスカイビングの考え方)
  • 工具が欠けるなら、まず「切削油の熱衝撃」を疑う。ドライで寿命が延びることは研究でも確かめられている
  • ドライにするなら、内歯車では切りくずの逃げ道とエアーの当て方をセットで考える
  • ドライは摩耗が進むと面が粗くなるので、交換の目安を面の粗さでも決めておく
  • 切削油をやめると、ポンプ・オイルコントローラ・廃油の費用と CO2 が減る
焼入れ後の内歯車(SkiveFinishing・ハードスカイビング)
  • 選択肢は、成形研削・ホーニング・創成研削とポリッシュ・ハードスカイビング・SkiveFinishing に広がった
  • 熱処理のゆがみの量(取り代)、求める等級と粗さ、数量で選ぶ
  • SkiveFinishing は工具の再生が海外の工場になる点も、運用の費用と日数に入れておく
  • どちらも新しい技術なので、自社の歯車でのテストカットで確かめる

よくある質問

スカイビングは全部ドライにしたほうがよいのですか?
工具寿命の面では有利な結果が出ています[5][2]。ただし内歯車では切りくずが張り付きやすく、摩耗が進むと面が粗くなる傾向もあるので、切りくずの処理と工具の交換の目安をあわせて決める必要があります[5][4]。
エアスカイビングは今あるスカイビング盤に付けられますか?
発表では、不二越のスカイビング複合加工機 GMS シリーズに搭載できるとしています[1]。ほかの機械への取り付けは資料に書かれていないので、メーカーに確かめてください。
SkiveFinishing は研削と何がちがうのですか?
砥粒で削る点は研削と同じですが、成形研削のように 1 歯ずつではなく、スカイビングの動きで歯を連続して仕上げます。工具はドレスせず、摩耗したら位置をずらし、最後は工場で再生します[11]。
ハードスカイビングと SkiveFinishing はどう使い分けますか?
ハードスカイビングは切れ刃(超硬や PCBN)で削り、速くて経済的です。SkiveFinishing はそれより高い精度と細かい面を狙う工法とされています[11][9]。

焼入れ後の内歯車を創成研削で鏡のようにみがく方法は 内歯車のポリッシュ加工の記事、スカイビングを含む歯車の加工法は 歯車の加工法、工具の寿命の考え方は 工具寿命の記事にまとめています。

出典・参考資料

  1. 不二越「ドライ環境でスカイビング加工の長寿命化を実現する『エアスカイビングシステム』を市場投入」(2025-07-31、PDF)
  2. 不二越「加工コストと環境負荷を低減 エアスカイビングシステム」(2026 年 1 月、PDF)
  3. 不二越「スカイビングギヤシェープセンタ GMS シリーズ」(PDF)
  4. MONOist「歯車のドライ加工を長寿命化、切りくずのかみ込み抑制」(2025-09-03)
  5. T. Arndt, J. Klose, M. Gerstenmeyer, V. Schulze(KIT wbk)「Tool wear development in gear skiving process of quenched and tempered internal gears」Forschung im Ingenieurwesen(2021、doi:10.1007/s10010-021-00544-0)
  6. 「The Simulation Analysis of Cutting Characteristics and Chip Formation Mechanism in Gear Skiving」Applied Sciences 14(24) 11635(MDPI、2024)
  7. 「ギヤスカイビング加工の切削力測定に関する研究」精密工学会 2023 年度秋季大会 学術講演会講演論文集(J-STAGE)
  8. JTEKT ENGINEERING JOURNAL No.1021「ギヤスカイビング加工中の切削状態解析技術開発」
  9. A. Hilligardt, C. Leonhardt, M. Zimmer「Hard gear skiving with high-performance tools: An innovative technology for future drivetrains」Gear Solutions(2026-03-14)
  10. Liebherr「Hard-fine machining – a cost effective process for internal gears and splines」(顧客誌 Evotion 25)
  11. Liebherr「SkiveFinishing® – 革新的な CBN ツールによる内歯車の精密ハード加工」
  12. Liebherr「SkiveFinishing®: Innovative Hard Finishing of Internal Gears」(顧客誌 Evotion 26)
  13. Motion + Power Manufacturers Alliance「SkiveFinishing® – Introduction of a new hard finishing process for internal gears」(ウェビナーの要旨、2026)

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