クーラントの管理

屈折計の読みと係数から濃度、目標濃度に戻す原液と水の量を計算。pH・腐敗の兆候・点検の頻度も。

屈折計の読みは
係数を掛けて
濃度にしてね。

マスコットのチップス

÷濃度と補給量の計算

屈折計の読み → 濃度

目標濃度に戻す補給量(原液と水)

補給量の式は、原液を 100%・濃度を体積% として、補給後の原液の量が目標と一致するように解いたものです(公開資料に同じ形の式は見つからず、ケズリバで導いた式)。今の濃度は「屈折計の読み × 係数」で入れてください。

屈折計(糖度計)の目盛りは Brix

手持ち屈折計はもともと糖液の濃度(ショ糖の Brix%)を測る道具で、目盛りはクーラントの実濃度ではなく Brix 値を示す。0〜10 目盛りと 0〜32 目盛りが多く、読みは同じでも 0〜32 の方が目が粗く読み取り精度が落ちる。[1][2][3]

屈折計の読みから濃度を出す式

C = R × F
C
実濃度(%)
R
屈折計の読み(Brix%)
F
屈折計係数(製品ごとの換算係数。糖度計係数・Brix factor・RI factor とも呼ぶ)

係数は製品の資料(製品データシート・単品カタログ)で確認する。係数 1.0 の製品なら読みがそのまま濃度になる。[4][3][5][2][1][6][7]

屈折計係数の考え方

屈折計が拾うのは原液のうち光を屈折させる成分(有効成分)だけなので、その割合で係数が決まる。原液に水が 20% 入っていれば、10% 希釈液の読みはよくても 8.0 にしかならない。係数は掛け算に使う数で、性能の良し悪しや含水量の目安ではない。読み 5 が 5% を意味するのは、原液がすべて有効成分のときだけ。[1][4]

種類ごとの代表的な係数(Master Fluid Solutions の目安)

種類係数
エマルション(ソリュブル油)1
ハイオイル・セミシンセティック/マイクロエマルション1.2
ローオイル・セミシンセティック1.8
セミシンセティック(表の最下段)3.3

同社の資料は係数の幅を『エマルションの 0.9 からシンセティックの 3.4 まで』とする。表の最下段は見出しが Semisynthetics だが、本文ではシンセティックが最大 3.4 としている。自社製品群の目安であり、他社製品には使えない。[4](資料1件・参考)

製品の屈折計係数の例(メーカー公表値)

メーカー製品種類係数補足
ユシロユシローケン AP-EX-E1エマルション1鋼・鋳鉄の切削・研削、アルミ合金の切削で推奨濃度 5〜10%[6](資料1件・参考)
ユシロユシローケン FGS650シンセティックソリュブル(オイルフリー)1.4切削 5〜10%、研削 3〜10%[8](資料1件・参考)
ユシロユシローケン FGC805Xソリューション2鋼・鋳鉄の切削・研削 3〜5%[9](資料1件・参考)
MORESCOモレスコツールメイト BS-1鉄用ソリュブル(JIS A2種1号相当)1.6資料の対応例:5wt% → 3.1 Brix%、10wt% → 6.3 Brix%[7][10](資料1件・参考)
MORESCOモレスコツールメイト カッティング☆スター 7000Cシンセティック(JIS A2種1号相当)1.9資料の対応例:5wt% → 2.9 Brix%、10wt% → 5.3 Brix%[11][10](資料1件・参考)
MORESCOモレスコツールメイト GDシンセティック(JIS A2種1号相当)2.9資料の対応例:5wt% → 1.7 Brix%、10wt% → 3.5 Brix%[12][10](資料1件・参考)

同じ『ソリュブル』『シンセティック』でも製品によって係数が 1.4〜2.9 と大きく違う。必ず使っている製品の係数を使う。MORESCO の対応例から逆算すると係数は濃度でわずかに変わる。[6][8][9][7][11][12]

測る前の 0 点合わせ

測定の前に水で目盛りを 0 に合わせる(Blaser は良質の水、Quaker Houghton は蒸留水、Haas は蒸留水または水道水)。温度補正(ATC)付きの屈折計は毎回の校正が要らないが、ときどき水で 0 を確認する。[3][1][2]

屈折計での測り方

[5][2]

混入油で読みがずれる

摺動面油・作動油などの混入油も光を屈折させるため、使い込んだ液では屈折計の読みが実際より高く出やすい。汚れがひどいと境界線がぼやけて読めなくなる。新しくよく混ざった液は境界線がくっきり出る。混入油は測る前に取り除く。[13][5][3][1]

屈折計以外の濃度の測り方

アルカリ滴定(シンセティック・セミシンセティック向き。使い込むと実際より低めに出やすい)、酸分解(ソリュブル油向き。油分を分離して量る。数時間〜1日かかる)などがある。複数の方法の結果を比べると異常に早く気づける。[13][14][1]

濃度(%)と倍率・比の換算

倍率 = 100 ÷ C / 水 : 原液 = (100 − C) : C
C
濃度(体積%)

倍率は『原液を何倍に薄めたか』、濃度は『希釈液の中に原液がどれだけあるか』。原液 2 L を水で 100 L にすると 50 倍・2%。5% は『20:1』と呼ばれることが多いが、水と原液の比は実際には 19:1。比で言うと誤解が起きやすいので % で伝えるのがよい。[15][1][16]

濃度を上げるときの原液量の目安

追加する原液量 ≒ タンクの液量 × 上げたい濃度(%)÷ 100

例:液量 123 ガロンを 1% 上げるなら原液 1.23 ガロン。厳密には足した分だけ液量が増えるので少し足りない(約 1.24 ガロン)が、現場の濃度測定は 1/4% 程度の精度なので実用上はこの計算で足りる。液量はポンプを止めて液がタンクに戻った状態で測る。[16](資料1件・参考)

目標濃度に戻す補給量の計算(体積収支)

Vc = (Ct × Vf − Cn × Vn) ÷ 100 / Vw = Vf − Vn − Vc / 補給液の濃度 Cm = 100 × Vc ÷ (Vf − Vn)
Ct
目標濃度(%)
Cn
今の濃度(%、屈折計の読み × 係数)
Vf
満タンの液量(L)
Vn
今の液量(L)
Vc
入れる原液(L)
Vw
入れる水(L)
Cm
補給液の濃度(%)

原液を 100%、濃度を体積%として、補給後の原液の量が目標と一致するように解いた式。Vc がマイナスになるときは今の液が濃すぎるので、水(または薄い補給液)だけで戻す。Master Fluid Solutions は補給量を出すのに『今の濃度・目標濃度・今の液量・満タン液量』の4つが要るとしてオンライン計算機を案内しているが、式そのものは公開資料で見つからなかったため、体積%の定義から導いた。(ケズリバで導いた式)[4][16](資料1件・参考)

補給のしかた

原液だけ・水だけを入れず、決まった比率で混ぜた補給液を入れる。Blaser Swisslube(米国法人)は補給液を目標濃度の 1/5〜1/3 程度にするのが一般的とする。ユシロは一定倍率で毎日補給し、水と原液の補給量を記録することを勧める。タンクの液面は 85〜100% に保つ(減ると温度・汚れ・泡が増える)。[17][15][18][4]

混ぜる順番(水が先、原液が後)

容器(またはタンク)に水を先に入れ、かき混ぜながら原液を加える(英語では Oil In Last=O.I.L.)。逆にすると油中水型の乳化になったり、均一に溶けなかったりする。エマルション系は一度できた乳化状態を後から直せない。補給液はタンクの外で混ぜてから入れるのがよい。[4][18][17][15]

濃すぎ・薄すぎで起きること

状態effects
濃すぎ手荒れ(皮膚炎)、べたつく残留物、原液の使いすぎ
薄すぎさび、工具寿命の低下、腐敗(菌の増殖)、液の寿命低下

[13][2][15]

pH の管理範囲

資料範囲補足
ユシロほとんどの水溶性油剤が pH 8〜10 の弱アルカリ性[15](資料1件・参考)
堀場製作所状態の良い液は pH 8.0 以上 10.5 未満[20](資料1件・参考)
Master Fluid Solutions一般的な金属加工油剤は pH 8.5〜10.5(中性に近い特殊品もある)[21](資料1件・参考)
Blaser Swisslube同社のほとんどのクーラントで使用液は pH 8.7〜9.4[5](資料1件・参考)

共通するのは『弱アルカリ(おおむね 8〜10.5)で、新液より下がってきたら劣化のサイン』という点。製品ごとの適正値は製品資料で確認する。[15][20][21][5]

pH の変化が示すもの

使い続けると pH は少しずつ中性側へ下がり、腐敗が進むとさらに下がる。下がると加工品質の低下、さび、腐敗臭につながる。逆に使用液の pH が新液より高い場合も原因を調べる。Blaser は pH が高すぎると皮膚への刺激・アルミのしみ・泡・塗装や樹脂部品への攻撃、低すぎると悪臭・さび・乳化の不安定・菌やバイオフィルムの増加を挙げる。[15][20][22][5]

pH の測り方

JIS K 2241:2017(切削油剤)の試験方法はガラス電極式 pH 計。pH 計はアルカリ側の精度を上げるため pH 6.86 と 9.18 の標準液で校正し、金属粉の少ない所から液を採る(堀場製作所)。現場では pH 試験紙でもおおむね足りるが、染料や混入油で読みが狂うことがある(Master Fluid Solutions)。[20][23][22][5]

腐敗(菌・カビ)の兆候

休み明けに機械を動かしたときの卵の腐ったような臭い(嫌気性菌が出す硫化水素。混入油の膜で液が空気に触れないと溜まりやすい)、ワークの茶色・黒いしみ、さび、乳化の分離(ソリュブル油)、カビのマットによるフィルタ詰まりや配管の流れの悪化、pH の低下。[24][25][15][5]

クーラントの菌の性質

好気性菌は 20〜30 分ほどで分裂して増え、乳化剤・さび止め剤などを食べて液そのものを壊す。嫌気性菌(硫酸還元菌)は 4 時間に 1 回ほどとゆっくり増え、液はあまり壊さないが悪臭の主な原因になる。菌の大半はタンクの壁や底のスラッジに付いていて、液を採っても 1% 未満しか拾えない。菌数は 1 mL あたりの個数を 10⁶ のような指数で表す。水道水にも 10²〜10⁴ 程度の菌がいる。[26][24][25][27](資料1件・参考)

腐敗を防ぐ管理

臭いが出たときユシロは濃度管理の徹底・防腐剤の添加・耐腐敗性の高い油剤の使用を挙げ、臭い対策のエアレーション(空気の吹き込み)は好気性菌の増殖と pH 低下を招くので避けるよう勧める。一方 Blaser は休業中も 1 日 30 分以上液を循環させるよう勧める。[25][28][27][17][5][15]

点検の頻度

項目frequency補足
濃度タンクに補給するたびに測り、少なくとも週 1 回は記録する(Blaser)[3](資料1件・参考)
補給少なくとも毎日、できれば毎シフト(Master Fluid Solutions)。一定倍率で毎日(ユシロ)[25][4][15]
pH定期的に測って傾向を見る(堀場製作所)。可能なら測って管理(ユシロ)[20][15]
外観・臭い変化を記録用紙に残す(Blaser)[5](資料1件・参考)
定期保全Haas の予防保全メニューにクーラントの pH と濃度の確認が入っている[29](資料1件・参考)

[3][25][15][20][29]

希釈水の水質

作業液の 9 割以上は水なので水質が効く。カルシウム・マグネシウムなどの硬度成分は油剤の乳化剤やさび止め剤と反応して効きを落とし、乳化を壊したり、タンク表面に豆腐のような金属石けん(スカム)を作ったりする。硬度は蒸発しないので補給を重ねると溜まる。水道水が硬すぎる場合は純水(DI・RO 水)も選択肢。[27][15][17]

水溶性クーラントの種類

ユシロの説明では、原液を水に溶かしたとき白く濁るのがエマルション、透明感があるのがソリュブル、無機・有機のさび止め剤を主成分に水に透明に溶けるものを特にソリューションと呼ぶ。Master Fluid Solutions は油分の量で、エマルション(油分 40% 以上)、マイクロエマルション/ハイオイル・セミシンセティック(20〜50%)、ローオイル・セミシンセティック(鉱油 0〜20%)、シンセティック(鉱油なし、または 0〜10%)に分ける。[15][4]

JIS K 2241(切削油剤)

切削油剤の日本産業規格は JIS K 2241:2017(2017-10-20 改正、原案作成は全国工作油剤工業組合)。不水溶性・水溶性それぞれの種類と性状、pH などの試験方法を定める。[23][20]

JIS K 2241 の水溶性の種類(A1種・A2種など)の定義

規格本文は有料で、JSA のプレビューは目次まで。MORESCO の製品資料にはソリュブル品・シンセティック品とも『JIS A2種1号相当』とあるが、種類の定義そのものは公開資料で確認できなかった。[23][7][12](公開資料で確認できず)

📚出典

印のない項目は、別々の発行元の資料 2 つ以上で一致したものです。製品の数値は各メーカーの資料が優先します。文はケズリバの言葉でまとめています。

  1. Quaker Houghton「Skill Builder: Concentration(V001.20.01.EN.GL)」
  2. Haas Automation「Coolant Refractometer, Brix 0-32%(Haas Tooling 09-0032 製品ページ)」
  3. Blaser Swisslube「濃度管理が安定した加工の前提条件(日本語ページ)」
  4. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #110 Coolant Concentration Facts and Terminology」
  5. Blaser Swisslube「Mantenimiento de fluidos de corte solubles en agua durante los paros de producción(Blaser College、2020-04-15)」
  6. ユシロ「ユシローケン AP-EX-E1 単品カタログ(2025-04-01)」
  7. MORESCO「モレスコツールメイト BS-1 製品案内(水溶性切研削油 鉄用ソリュブルタイプ)」
  8. ユシロ「ユシローケン FGS650 単品カタログ(2025-04-01)」
  9. ユシロ「ユシローケン FGC805X 単品カタログ(2025-04-01)」
  10. MORESCO「金属加工油剤 製品一覧」
  11. MORESCO「モレスコツールメイト カッティング☆スター 7000C 製品案内(シンセティックタイプ)」
  12. MORESCO「モレスコツールメイト GD 製品案内(シンセティックタイプ)」
  13. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #032 Concentration Control of Coolants」
  14. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #028 Concentration Control of Coolants by Alkaline Titration」
  15. ユシロ「金属加工油剤 FAQ」
  16. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #060 The Mathematics of Metalworking Fluids」
  17. Blaser Swisslube「Water-Miscible Coolant Care: 7 Tips for Success(Blaser Swisslube Inc.)」
  18. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #045 Mixing Water-miscible Metalworking Fluids」
  19. ユシロ「水溶性切削・研削油剤 ユシローケン 製品一覧(Ver.20)」
  20. 堀場製作所「アプリケーションノート 金属加工用水溶性切削油のpH管理(HAJ-4001Aa)」
  21. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #069 The Importance of pH+ and Reserve Alkalinity」
  22. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #057 Characteristics of Metalworking Fluids - pH+」
  23. 日本規格協会「JIS K 2241:2017 切削油剤(プレビュー:目次まで)」
  24. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #043 Metalworking Fluids and Biological Contamination」
  25. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #070 The Control of Bacteria and Fungus in Metalworking Fluids」
  26. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #066 Background on Bacteria and Fungus in Metalworking Fluids」
  27. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #044 Metalworking Fluids and Water Quality」
  28. Master Fluid Solutions「Technical Bulletin #035 Tramp Oil Removal and Control」
  29. Haas Automation「Preventive Maintenance Program(Haas Factory Outlet 資料)」