プレス機械のクラッチ・ブレーキ・安全装置の点検

止まる力(クラッチ・ブレーキ)と止める仕組み(安全装置)を保ち、停止時間に見合った安全距離を確かめる。点検の周期・判定の数値・油種は、プレスメーカーの取扱説明書と、機械・安全装置の銘板の表示が最優先。特定自主検査は資格のある人か登録検査業者が行う。安全装置の取付け・調整は特別教育の対象業務。ここにある法令の要点は 2026-10-06 に e-Gov と厚生労働省の公開資料で確かめたもので、改正に注意すること

⚙手入れと点検

÷安全距離の計算(光線式・両手操作式の安全プレスと安全装置)

  1. プレス機械の銘板(または停止性能の測定値)から最大停止時間 Tl+Ts(ミリ秒)を読む。測定値がメーカー指定値以内であることを先に確かめる
  2. 光線式なら、安全装置の銘板の連続遮光幅から追加距離 C を表で読む(両手操作式は C なし)
  3. 安全距離 D(mm)= 1.6 ×(Tl+Ts)+ C
  4. 光軸(または両手の操作部)と危険限界の実測距離が D 以上であることを確かめる
光線式
D = 1.6 ×(Tl + Ts)+ C [D:mm、Tl:手が光線を遮ってから急停止機構が働き始めるまでの時間 ms、Ts:急停止機構が働き始めてからスライドが止まるまでの時間 ms、C:追加距離 mm]
両手操作式(安全一行程式)
D = 1.6 ×(Tl + Ts) [Tl:操作部から手が離れてから急停止機構が働き始めるまでの時間 ms]
1.6 の意味
手の速度 1.6 m/s(=1.6 mm/ms)。停止までの時間に手が動く距離(厚労省のリスク低減対策の例)
計算例:条件
最大停止時間 Tl+Ts = 150 ms、光線式で連続遮光幅 40 mm(追加距離 300 mm)
計算例:結果
D = 1.6 × 150 + 300 = 540 mm。連続遮光幅 30 mm 以下の装置なら 240 mm(試算)

クラッチ・ブレーキが劣化して停止時間が延びると、必要な安全距離も延びる。整備して本来の停止時間に戻す(厚労省)。両手起動式(急停止機構のないプレス)の安全距離は「所要最大時間」から決まるが、その式は今回の公開資料では確かめられなかった[4][6][2][7]

▦連続遮光幅に応じた追加距離 C(動力プレス機械構造規格 第43条・第45条)

方式連続遮光幅 mm追加距離 C mm
光線式30 以下0
光線式30 を超え 35 以下200
光線式35 を超え 45 以下300
光線式45 を超え 50 以下400
制御機能付き光線式(PSDI)14 以下0
制御機能付き光線式(PSDI)14 を超え 20 以下80
制御機能付き光線式(PSDI)20 を超え 30 以下130

連続遮光幅は、遮光棒を置いたときに検出できる棒の最小直径。光線式は 50 mm 以下、制御機能付き光線式は 30 mm 以下でなければならない。管理指針の表は追加距離を「以上」と書いている[4][6](資料1件・参考)

▦ピンクラッチ・キークラッチ・ブレーキの摩耗とがたの限度(動力プレス特定自主検査基準)

部位測り方300 kN 以下300 kN 超 1,000 kN 以下1,000 kN 超
クラッチピン(スライディングピンクラッチ)取り外して R ゲージで丸くなった部分3R 以下4R 以下5R 以下
クラッチピンの当て金R ゲージ2R 以下3R 以下4R 以下
クラッチ作動用カムの押し下げ量掛け外しを数回行い、ピンの衝撃でカムが押し下げられる距離1 mm 以下1.5 mm 以下2 mm 以下
クランク軸とクラッチカップリングを固定するキー下死点で回転方向に動かし外周のがた0.5 mm 以下1 mm 以下1.5 mm 以下
ローリングキー・バックローリングキーの角部R ゲージ2.5R 以下5R 以下6R 以下
中央のクラッチリング(キークラッチ)R ゲージ3R 以下6R 以下7R 以下
クラッチブラケットとカムのスライド部(共通)隙間ゲージ前後・左右とも 0.3 mm 以下同左同左
クラッチ連結部のピンとピン穴(共通)ノギスでピン径と穴径の差1 mm 以下同左同左
ブレーキドラムを固定するキー(共通)隙間ゲージで外周のがた0.2 mm 以下同左同左

列はプレスの圧力能力。R は R ゲージの半径(mm)。ピンクラッチ・キークラッチの旧型プレス(ポジティブクラッチプレス)は、2011年の構造規格改正で原則として製造禁止になった(厚労省の改正資料)が、既存の機械は使われている[1][8](資料1件・参考)

÷フライホイール(主歯車)の横振れの判定(動力プレス特定自主検査基準)

  1. 運転して異音・横振れ・異常発熱があれば、横振れ量を測る
  2. 測った位置から回転軸までの距離 r(mm)と、横振れの実測値 δ(mm)を記録する
  3. 換算値 a = δ ÷ r × 500(半径 500 mm の位置に換算した振れ)
  4. すべり軸受なら a ≦ 1 mm、転がり軸受なら a ≦ 0.5 mm
換算値
a(mm)= 横振れの実測値(mm)÷ 測定位置から回転軸までの距離(mm)× 500
計算例:条件
回転軸から 300 mm の位置で横振れ 0.4 mm、転がり軸受
計算例:結果
a = 0.4 ÷ 300 × 500 ≒ 0.67 mm で 0.5 mm を超える(試算)

基準の図1 による。主歯車がある場合は主歯車を測る[1](資料1件・参考)

▦電装品の交換・オーバーホールの目安(アイダエンジニアリング)

分類部品交換・OH の目安
モータ類メインモータ(DC・VS)、小型モータ(連続)、ブロアモータ、サーボモータ5 年
モータ類小型モータ(断続)10 年
操作部品操作ディスプレイ、電子カウンタ、運転ボタン、非常停止ボタン5 年
制御機器電磁開閉器5 年または 100 万回
制御機器制御(補助)リレー3 年または 500 万回
制御機器冷却ファン、盤クーラ5 年
制御装置安定化電源、シーケンサ電源部、インバータ、サーボアンプ5 年
制御装置シーケンサ(電源部以外)10 年
SCR 制御機器サイリスタスタック、界磁スタック、コントロール基板10 年(スタック冷却ファンは 5 年)
検出器エンコーダ(インクリメンタル)5 年
検出器エンコーダ(アブソリュート)、荷重計の歪センサ、差動トランス式センサ10 年
検出器ロータリーカムスイッチ3 年または 400 万回
検出器荷重計の油圧センサ7 年
各種アンプ光線式安全装置、電源内蔵の装置(荷重計・ダイハイト計など)5 年
各種アンプ外部電源の装置(タイミングスイッチなど)10 年
その他クラッチ・ブレーキ電磁弁5 年(連続使用)/3 年(単発使用)
その他空圧電磁弁、油圧電磁弁5 年または 500 万回
その他パスカルポンプ、給油ポンプ5 年

取扱説明書の保守・定期点検をしていることが条件で、使用環境により変わる。アイダは参考資料として日本電機工業会(JEMA)の汎用インバータ・汎用 PLC の定期点検のすすめを挙げている[5](資料1件・参考)

📚出典

印のない項目は、別々の発行元の資料 2 つ以上で一致したものです。数値・周期は機種ごとの指定が優先します。文はケズリバの言葉でまとめています。

  1. 厚生労働省「動力プレス特定自主検査基準(令和7年厚生労働省告示第323号、令和8年1月1日適用)」
  2. 厚生労働省「別表2 プレス機械におけるリスク低減対策の例(光線式安全装置の主な事例)」
  3. 日本鍛圧機械工業会(JFMA)「パンフレット「鍛圧機械 予防・保守保全のおすすめ」」
  4. 厚生労働省「動力プレス機械構造規格(昭和52年労働省告示第116号。厚生労働省 法令等データベース)」
  5. アイダエンジニアリング「電装品の交換又はオーバーホールの目安(PDF)」
  6. 厚生労働省「プレス機械の安全装置管理指針(平成27年9月30日 基発0930第11号。静岡労働局掲載)」
  7. 日本鍛圧機械工業会(JFMA)「法規解説「プレス機械の安衛法一覧表」」
  8. 厚生労働省「動力プレス機械構造規格の改正について(審議会資料 参考3)」
  9. 厚生労働省「労働安全衛生規則(e-Gov 法令検索。第36条・第86条・第108条の2・第131条〜第137条)」
  10. 厚生労働省「リーフレット「機械による労働災害防止対策を強化するため労働安全衛生規則を改正しました(プレス機械対策を中心に)」(2011年)」
  11. 厚生労働省「職場のあんぜんサイト 労働災害事例「共同作業者が目視確認を行わずにプレスブレーキを作動させ、腕がはさまれた」」
  12. 厚生労働省「職場のあんぜんサイト 労働災害事例「加工品を上型から外すために置いた安全ブロックが飛来し死亡」」
  13. 厚生労働省「職場のあんぜんサイト 労働災害事例「プレス機械で加工中に材料を取出そうとしたとき、スライドが下降し被災」」
  14. 厚生労働省「職場のあんぜんサイト 労働災害事例「プレス機械を修理中、上型とダイクッションとの間に挟まれる」」
  15. アイダエンジニアリング「アイダプレス情報館「点検してますか?サーボプレス機用アルミ電解コンデンサー」」
  16. アイダエンジニアリング「アフターサービス「スペアパーツについて」」
  17. アイダエンジニアリング「アイダプレス情報館「予備品はどんなものを持っておいたほうが良いの?」」